教育研究業績の一覧

阿部 利洋
A 教育業績
教育実践上の主な業績 年月日概要
1 教育内容・方法の工夫(授業評価等を含む)
1 授業内レポートとアンケートのフィードバック 2005-04-00 ~ 授業の初回開始時に、主要テーマに関する学生の理解や印象、疑問等を書いてもらい、その内容に応じてその後の軌道修正する。また、授業内レポートは「伝わらなかったこと」を把握するのに役に立つ材料となる。学生同士説明させて理解の向上を図るよう試みたりもしている。
2 個別面談の実施(第4学年) 2007-04-00 ~ 前期と後期のはじめにゼミ生全員と個別面談を実施する。これにより、就活等で時間的制約のあるなか学生各自が明確なスケジュールを設定するよう促している。
3 大学院留学研究生・学部留学生の個人指導 2011-04-00 ~ 各学生に対して週一回の個別指導。社会学分野の基礎的な学習を通じて、日本語によるレポート執筆指導に力を入れている。
2 作成した教科書、教材、参考書
1 プリント資料 2005-04-00 ~ 担当科目で取り上げる事例(グローバリゼーションに伴う文化や価値観の変容、格差問題、移民問題、紛争とその後の社会復興など)は、地域的な文脈の影響を大きく受け、同時代的な変化にさらされるものでもある。そのため、アカデミックな事例解釈に限定せず、新聞や雑誌などからも参照データを広範に収集したプリント資料を作成した。タイムリーな事例を通して想像力を喚起し、授業内容を立体的に把握してもらうようにしている。
2 映像資料の活用 2006-04-00 ~ 多様な社会的現実を具体的に考察する際には、フィールド体験のみならず優れた映像資料も有効である。なかでも海外の事例を紹介するには映像に依拠する意義が大きい。自ら撮影したものを含め、映像の編集に関わる作成者の意図を説明しながら使用している。
3 『南アフリカを知るための60章』(峯陽一編、明石書店)
2010-04-00 担当「真実和解委員会を通じた和解の模索」
ポスト・アパルトヘイト時代の南アフリカ政治に関して、過去の人種・民族対立への対処という観点から、真実和解委員会活動の整理を行った。象徴的な公聴会光景を取り上げ、その質疑から浮かび上がる真実と和解をめぐる困難を具体的に描出するとともに、その状況を当該社会情勢に即して理解する視点を提供した。4頁(91-94頁)
4 『アフリカ社会を学ぶ人のために』(松田素二編、世界思想社) 2014-03-00 担当「紛争処理」
冷戦以降のアフリカ大陸は、頻発する武力紛争によって認知される一方、紛争後の国家再建プロセスをになう移行期正義分野では、その新たな制度設計の潮流によって注目を集めている。この小論では、ルワンダのガチャチャと南アフリカの真実和解委員会を取り上げ、それらが近代司法の紛争解決とどのような点で異なるのか、概説した。12ページ(266-277ページ)。
5 『映画は社会学する』(西村大志・松浦雄介編、法律文化社) 2016-07-00 第18章分担執筆「想像の共同体」
ベネディクト・アンダーソンの「想像の共同体」論は、国民アイデンティティの成立と実感を可能にする必要条件として、統一された文字表記に着目した。本論では、その議論を敷衍することで、日本映画というジャンル確立の形式的条件を検討した。『ウンタマギルー』(1989)や『スワロウテイル』(1996)など全編にわたって日本語字幕が付される作品、また『漂流街』(2000)や『ルパン三世』(2014)のように日本人役者が中国語や英語を用いて演技する作品が、にもかかわらず日本映画の範疇に収められるのは、日本語表記で統一的に表現された(されうる)映像作品だからである、と考察した。pp.208-218
6 『平和をめぐる14の論点――平和研究が問い続けること』(日本平和学会編、法律文化社) 2018-09-00 第10章分担執筆「紛争後社会の平和を再建するには謝罪と償いが必要か」
紛争後社会における謝罪と償いに関する制度的な取り組みを、平和構築と移行期正義の文脈から整理した。そのうえで「紛争後社会において謝罪と償いはどのような形をとるか」、「謝罪と償いは平和を再建しうるのか」、「謝罪と償いが有効にはたらく条件は何か」といった問いについて考察した。pp180-196(17頁)
7 『スポーツをひらく社会学――歴史・メディア・グローバリゼーション』(今泉隆裕・大野哲也編、嵯峨野書院) 2019-11-00 第9章分担執筆「スポーツ移民のグローバル移動――サッカーの事例を中心に」
プロスポーツの世界では、一定の市場規模になると、種目と地域を問わず、移民選手の存在感が増してくる。こうした選手は、どのような移住パターンを示すのか。ホスト社会側は、どのような姿勢で受け入れているのか。グローバリゼーションと消費社会論の枠組みを背景として、スポーツ移民研究の基本的視点を整理した。34頁(217-250頁)。
3 教育方法・教育実践に関する発表、講演等
4 その他教育活動上特記すべき事項
1 専門社会調査士資格の取得 2005-10-00 社会調査の方法論と専門的技能を体系的に習得したことが認定された(一般社団法人・社会調査協会)。とりわけ質的調査に関する学生指導に活かしている。
2 卒論執筆時におけるフィールドワーク支援 2006-04-00 ~ 卒論執筆の際にフィールドワークを実施する学生に対しては、場合によっては先方との連絡を含め、調査計画の立案、依頼状作成、定期的な進行状況の確認等、授業外のサポートを行っている。
B 職務実績
1 京都大学大学院文学研究科21世紀COEプログラム『グローバル化時代の多元的人文学の拠点形成』・「多元的世界における寛容性についての研究」班共同研究員 2002-04-00
~2006-03-00
このプロジェクトは、グローバル化の進展に付随する世界観の競合と交渉過程に着目し、そこにおいていかにして社会秩序が再編されていくのか、という問いを追究する共同研究である。共同研究員としての課題は、南アフリカの真実委員会とアメリカの修復的司法を比較することから、寛容性に関する実証的な研究を行うことであった。アメリカ合衆国(2003年9月および2004年8月)での現地調査を踏まえた成果は以下の論文、「修復的司法におけるコントロール」(2004年12月)および「移行期社会と宗教の変容――南アフリカにおける和解の模索」(2005年3月)、「社会体制転換後の特赦と寛容性――南アフリカの事例を中心に」(2007年3月)としてまとめた。
2 文部科学省科学研究費補助金・基盤研究B(海外学術調査)『東南アジア大陸部における生成的コミュニティ』研究分担者 2007-04-00
~2010-03-00
この研究プロジェクトの目的は、グローバル化と近代化の深化の中で、東南アジア大陸部において新たに出現しているコミュニティの動態を実証的に記述し、生成という概念からその社会性を読み解くことである。分担者としての課題は、「カンボジアにおける紛争後の社会再統合に関する調査・分析」であり、特に「真実委員会と特別法廷の比較」および「帰還民の生」に焦点をあてている。
3 大谷大学公開講座・南アフリカにおける真実と和解 2008-02-00 学生・市民を対象とした公開講座「南アフリカにおける真実と和解」を担当した。1回目では、アパルトヘイト後の南アフリカ社会の現状を紹介するとともに、その略史をたどり、アパルトヘイトとはどのような社会制度であったのか、それがどのような形で終焉したのか、について説明した。2回目では、過去の対立や被害が真実和解委員会という政府組織の主導によって取り組まれた現状を紹介し、その活動の実態や課題について共有した。3回目では、真実と和解を掲げる活動が南アフリカ外部の国々にも広まってきた流れを把握したうえで、このような取り組みが一般化する時代状況を理解するためのヒントを提供するよう試みた。
4 文部科学省科学研究費補助金(若手研究A)
「変動期の社会における法秩序の再構築――南アフリカとカンボジアの比較社会学的研究」研究代表者
2010-04-00
~2014-03-00
紛争を経験した社会が、その後どのようにして司法の正当性を回復し、社会構成員の法的ニーズに応えていくのか。その過程で、どういった独特の問題が生じ、どのような反応が展開することになるのか。そうした社会における法秩序の再構築は、理論的にはどのように把握できるのか。
これらの問いに対し、本研究は、南アフリカとカンボジアという対照的な社会を比較対象として取り上げ、社会学的な分析手法を用いて答えることを目的とする。また、このアプローチにより、従来、政治学的・法学的考察に限定されがちであった平和構築・「移行期の正義」研究に、新たな知見を提示することを目指した。
5 文部科学省科学研究費補助金・基盤B(海外学術調査)「東南アジア大陸部におけるコミュニティ運動」分担者 2011-04-00
~2014-03-00
本研究の目的は、近年、東南アジアにおいて勃興しつつある新しいタイプのコミュニティ(共同体)の実態を運動の視点から捉えることによって、そこに参加する人々の現在と未来に向けた想像力、情動、および社会変革のイメージと、それを実現しようとする関係性、組織や手段を人類学的に解明することである。分担者は、カンボジア地方部における元仏教僧らによる教育再生運動に着目し、学校運営の過程を通じて創出される共同性、価値や倫理の様態を解明することを目的とする。
6 文部科学省科学研究費補助金・基盤S「アフリカの潜在力を活用した紛争解決と共生の実現に関する総合的地域研究」分担者 2011-06-00
~2016-03-00
西洋近代やアラブ・イスラームといった外部世界からの影響と、つねに衝突や接合を繰り返しながら生成してきたアフリカ社会の潜在力やインターフェイス機能を解明し、紛争の解決と共生の実現のために活用する道を探求することを目的とした。分担者は、アパルトヘイト後の南アフリカにおけるマジョリティと「新たな他者」とのあいだに生じている紛争の様態を把握し、現在取り組まれている解決の方途を社会学的に分析する課題を担当した。
7 課外教育行事における講演 2012-11-11 学園祭開催期間中に行われた大学課外教育行事<異文化との出会い>のなかでの講演。「カンボジアの紛争と復興」
8 文部科学省科学研究費補助金・基盤B「創造的接合知生成のための日常人類学的研究――グローバル言説とローカルな実践」分担者 2013-04-00
~2016-03-00
グローバル基準とローカル文化は、現代ではいずれも「先進社会の価値の押し付け」や「文化の名の下の抑圧」といった視点から批判される対象ともなっており、両者が葛藤/折衝する現場で具体的に表出する接合知の実相を追求する必要にせまられている。本研究では、グローバル化の進展のなか世界各地で生起している普遍的な世界基準と個別のローカル文化との間の対立を超克し,両者を接合する知の生成メカニズムを解明するアプローチを比較・検討する作業を行った。
9 文部科学省科学研究費補助金・基盤C「移行期正義の社会的影響に関する比較社会学的研究」研究代表者 2014-04-00
~2017-03-00
体制転換あるいは紛争終結により民主化した社会は包括的な社会秩序の再建に取り組むことになる。その際に実施されるさまざまな制度・活動は移行期正義(Transitional Justice=TJ)と総称され、これまでアジア・アフリカ各地で多く行われてきた。一方、関連分野における近年の研究では「TJは常に失敗している」とする批判的な分析も増えている。本研究では社会学的な視点から、TJの効果と影響に関する独自性を把握することを目指す。具体的には、社会運動論のアプローチを応用することから、民主化後のTJと社会秩序の再建に関して新たな理解を提示することを目的とする。
10 文部科学省科学研究費補助金・基盤S「「アフリカ潜在力」と現代世界の困難の克服」分担者 2016-06-00 ~ 本プロジェクトの目的は、アフリカを救済、同情の対象あるいは資源の供給源や有望な市場とのみみなしてきた従来の認識を刷新し、アフリカが有する問題解決と発展への潜在力を解明し、それが有する人類社会に対する貢献の可能性について総合的に検討することである。分担者は政治・市民社会班に所属し、南アフリカ社会におけるシティズンシップの問題を担当する。
11 大谷学会公開講演「解決よりも触発を――不透明な時代の社会学」 2016-06-08 グローバル化の進む現代世界では、一方でテロ、難民、紛争といった不安定化の動きも顕著にみられる。さまざまな解決策が採られるものの、事態は期待通りに変化せず、新たな問題が派生してしまうこともしばしばある。たとえば紛争後の社会に対しては、これまで国際社会がさまざまな支援・介入を行ってきたが、正義や司法の分野における取り組みは、つねに(程度の差こそあれ)失敗であると批判されてきた経緯がある。けれども、視点を変えてその「失敗」の内実を見ていくと、実際にはいろいろな副産物・派生効果を見出すことができる。この見方には社会学的な思考と近いものがある。逆説的な説明や意図せざる結果への着目など、社会学理論の多くは「コントロールできない社会のメカニズム」に関心をもっている。人間は社会を十分にコントロールすることができない一方で、不断に働きかけ、予測を外れる現実に直面し、あるいは肯定的な逸脱が生じることもある。どのような条件がこうした帰結を生むのか、それが私たちの社会に今後どう関わってくるのか。ここでは、曖昧さ・不十分さの効果という点から考察を行った。60分
12 文部科学省科学研究費補助金・基盤A「グローバル化における権力編成の変動と新たなコミュニティ運動――東南アジア大陸部から」分担者 2017-04-00 ~ 東南アジア大陸部における新たなコミュニティ運動の動向を実証的に比較検討する。分担者はカンボジア地域を担当。
13 科研基盤C「東南アジアサッカー市場における移民選手の戦略とネットワーク」代表者 2017-04-00
~2020-03-00
従来、サッカー移民に関する社会学的研究としては、ヨーロッパ市場におけるアフリカ人選手を対象とし、移民の送り出し国と受け入れ国の経済格差とそれに起因する移民選手の否定的環境を批判的に検討するものが多かった。それに対して、本研究では(1)東南アジアという新興サッカー市場を取り上げ、(2)出身国のさまざまな移民選手に着目し、(3)彼らの能動的なサバイバル戦略と独特のネットワーク構築に焦点をあて、台頭する東南アジアサッカー市場の動態を実証的に描出することを目的とする。
14 科研基盤B「「小さな共同体」の環境保全力に関する研究:生活環境主義の革新的展開に向けて」研究分担者 2019-04-00 ~ 古川 彰, 伊地知 紀子, 松田 素二, 中野 康人, 土屋 雄一郎, 阿部 利洋
15 科研基盤B「集合的なニーズ・権利に関わるグローバルな正義の比較社会学的研究」研究代表者 2021-04-00 ~ 阿部 利洋, 松田素二, 坂部晶子, クロス京子, 松浦雄介, 近森高明
C 学会等及び社会における主な活動
所属期間及び主な活動の期間 学会等及び社会における主な活動
1 2000-05-00~0000-00-00 日本アフリカ学会
2 2001-04-00~0000-00-00 関西社会学会
3 2001-12-00~0000-00-00 日本社会学会
4 2009-01-00~0000-00-00 International Sociological Association
5 2011-06-00~0000-00-00 日本平和学会
6 2014-06-00~0000-00-00 日本文化人類学会
7 2018-08-00~0000-00-00 日本スポーツ社会学会
D 研究活動
著書、学術論文等の名称単著、
共著の別
発行又は
発表の年月
発行所、発表雑誌等
又は
発表学会の名称
概要
Ⅰ著書
1 紛争後社会と向き合う――南アフリカ真実和解委員会単著 2007-12-00京都大学学術出版会 南アフリカの真実和解委員会(TRC)は、紛争解決や移行期正義といった分野から広く注目を集め、またさまざまな議論を喚起した。しかし、そうした議論のなかには、キリスト教的なシンボリズムや個人的な赦しの可否など、活動期間や活動内容の一部を強調することで立論を行い、TRCの社会的機能を検討するための基盤を欠くものも多かった。そこで本書は、「どのような組織が、何をしていたのか」のみならず「どのような人びとが、どのように関与したのか」という視点から、細部にわたる社会学的記述に取り組んだ。結果として、裁判とは異なる証言の仕組みやメディアによる積極的な報道を条件として、その活動は、公的機関としてのTRCが意図していなかった形態での参加可能性に開かれていた点を明らかにした。総頁数384頁
2 真実委員会という選択――紛争後社会の再生のために単著 2008-04-00岩波書店 紛争解決の新たなアプローチとして真実委員会を受け止める認識は、アカデミズムと国際支援実務の現場では浸透してきつつあるものの、一般的には希薄であるものと思われる。そこで本書では、専門外の読者を念頭に置きつつ、その活動の大づかみな見取り図を提供するとともに、こうした活動が広まってきた背景や時代性としてどのような要因を考えることができるのか、論述した。真実や和解という理念の比較対象となるのが、従来の司法であり、正義という理念である。総頁数240頁
3 Unintended Consequences in Transitional Justice: Social Recovery at the Local Level単著 2018-08-00Lynne Rienner Publishers/ Kyoto University Press 冷戦終了後に紛争が多発したグローバル世界では、現地社会の実質的な再統合と回復を目的とする移行期正義(transitional justice=TJ)政策が、紛争後社会に対する国際介入の基準として一般化してきた。TJは、それまでの主要な選択肢であった政治的責任者の処罰よりも、被害者のエンパワメント・法の支配の浸透・国民和解といった目標を掲げて、証言公聴会を活動の軸とする真実委員会やローカル・オーナーシップを制度化するハイブリッド法廷など、新たな政策的潮流を生んだ。本書のねらいは、紛争後という秩序の不安定な社会において、国際介入によって持ち込まれる正義の理念に直截的な実効性を読み込む視点と、外部の働きかけからは独立した能動的な行為者像のいずれにも依拠することなく、紛争後社会の実態と特徴を把握しようとする点にある。具体的には、社会運動論やドラマトゥルギー論の知見を応用しつつ、TJがどのような形で(公式目標とは異なる)社会的影響をもたらしているのか、明らかにした。240頁。
4 The Khmer Rouge Trials in Context単編 2019-04-00Silkworm Books カンボジアの特別法廷が2006年に開廷してから12年が経過している。国内法と国際法および国内外の司法関係者を併用するハイブリッド法廷は、当初、ローカルオーナーシップの体現という観点から国際司法の新たなモデルとなることが期待された。しかし近年、(訴追された被告および判決の少なさを中心に)法学的な立場からは批判的な評価が相次いでいる。一方、現地社会ではどのように法廷が受容されてきたのかという点については包括的な検討は行われていない。この論集では、法廷で活動したスタッフと社会学者による考察を織りあわせるアプローチを採用し、さまざまなアクター(国連、現地政府、外国人専門家、ローカルNGO、民事当事者、ローカルメディア等)がどのように関わりあい、どのような意味の社会化を求めていかなる言説を展開し、結果としてどのような法廷外の現実が展開したのか、多角的な検討を行った。309 pp.
5 日常的実践の社会人間学――都市・抵抗・共同性共編 2021-03-00山代印刷株式会社出版部 都市・抵抗・共同性という視点から、生活世界の創造/再創造を考察する論集。松田素二・井戸聡・大野哲也・野村明宏・松浦雄介との共編。
以上5点
Ⅱ学術論文
1 進化論/聖書解釈/集団的記憶――南アフリカ人種主義の基底的合理性単著 1996-12-00京都社会学年報4号(京都大学文学部社会学研究室) デュボウの『近代南アフリカの科学的人種差別主義』(Scientific Racism in Modern South Africa) に依拠しながら、人種差別と科学・宗教の関わりを考察した。とくに、国連のアパルトヘイト禁止条約(1973年)に代表される国際社会からの非難を受け続けてなお強硬に維持されたアパルトヘイト体制の価値観の背景にある進化論解釈に焦点をあてた。8頁(197頁~204頁)
2 展開する秩序――南アフリカ・真実和解委員会をめぐる和解の試み単著 2000-11-00現代思想28巻13号(青土社) 南アフリカの一連の試みには、とくに外部社会から好意的な視線をそそがれてきた。しかし、現地では、委員会発足当初からさまざまな対立・葛藤が継続し、さらにはそうした問題点に対して、独特のレトリックを用いた調停の試みもなされてきた。本稿では、委員会活動に関する数量的データの詳しい開示、および当地において対立する視点の整理を行うと同時に、文化的特殊性の分析も行った。11頁(181頁~191頁)
3 紛争後社会の再生――南アフリカの事例から単著 2001-10-00ソシオロジ142号(社会学研究会) 現代南アフリカ社会を事例として「紛争後の社会がどのような、あるいはどのように秩序を模索するのか」という問いを検討した。「時代を代表する証言」が公的なものになっていくメカニズムを実証し、国民国家統合期の社会でフーコー的な言説権力の作用が見られることを示す一方で、死者に関する代理証言の多さや、委員の振る舞いからは、必ずしも上記の権力論的な視点が徹底し得ないという留保も付加した。16頁(21頁~36頁)
4 エチオピア正教会のシンボリズムと宗教間対話論単著 2002-12-00宗教研究334号(日本宗教学会) 多様なキリスト教実践のなかでも検討されることの少ないエチオピア正教会のシンボリズムを取り上げた。なかでも神人を媒介する表象を形式化する過程を通して、宗教間対話という課題にその形式を応用する可能性を探ることを目的とした。本稿は、正教会の信仰実践をめぐる実証的知見を踏まえつつ、そのシンボリズムを形式化することで得られる指針を応用し、宗教間対話に関する具体案を例示した。21頁(115頁~135頁)
5 現代南アフリカにおける和解の問題――紛争後社会に関する宗教社会学的考察(博士論文)単著 2004-03-00京都大学大学院文学研究科 黒人政権移行後の南アフリカで行われた真実和解委員会を分析対象として、紛争後社会の和解の問題を考察した。その際、社会的特性として「法的に事後処理を進めることの困難」と「社会構成員のトラウマに対応する必要性」を議論の出発点に据え、その状況を実証する中で社会学的パラドクスを介した可能性が見出されることを論じた。和解の当否を直接問う姿勢とは別に、社会的な和解を掲げる集合行為の効果や機能を推論した。総頁数283頁
6 Christian Principles in a Social Transition: The South African Search for Reconciliation 単著 2004-10-00African Study Monographs Vol. 25, No. 3 (The Center for African Area Studies) ポスト・アパルトヘイト期の南アフリカでは、正義の追求よりも和解の模索が人種問題解決の方向性として選択された。和解の理念のルーツは1980年代に教会関係者が深く関与した解放闘争に求めることができる。けれども、当時は和解を掲げることはそれ自体が現状維持に寄与するものとして忌避される傾向にあった。本稿では、20年の間に変化した複数の政治的立場・視点とそれらの相互関係について歴史社会学的な手法から跡づけた。16頁(149頁~165頁)。
7 修復的司法におけるコントロール単著 2004-12-00京都社会学年報(第12号) 被害者支援の具体的方策として注目を集めている修復的司法プログラムについて、社会学的な分析を行った。ここで引き出された仮説命題は「刑罰コストの増加・公的予算の減少・個人的ニーズ充足への圧力・再犯防止の効率化、といった社会的条件が、人のアイデンティティは(根源的に)変化するという判断形式により説得力を与えるのではないか。その際に説得ツールとして潜在的な機能を果たすのがグループセッション的なコントロールである」というものである。16頁(57頁~72頁)
8 社会体制転換後の特赦と寛容性――南アフリカの事例を中心に単著 2007-03-00『多元的世界における寛容と公共性――東アジアの視点から』(芦名定道編、晃洋書房) 通常、心の問題ないし精神的な特性とみなされがちな寛容の概念に対して、社会的・制度的な観点から考察を加えることを目的とした。近年、体制転換後の社会で、かつての加害行為に特赦を付与する事例が頻発している。そこでは、一括免責として行われる場合と、真実委員会のように代替的な措置がとられる場合とに大別される。本稿では後者の事例に焦点をあて、社会的・制度的な寛容性という観点から、「法的訴追が難しいために消極的に特赦が選択される」という見方への反駁を行い、交渉規範を保証する効果について検討した。13頁(158頁~170頁)
9 カンボジア特別法廷の社会的機能――あいまいな「正義」は何をもたらすか単著 2008-03-00大谷学報(大谷大学大谷学会)87巻2号 社会的な正義の要請は、対象となる出来事が生じた後長い時間が経過してから持ち上がることもある。本論では、1970年代のポル・ポト政権時代に生じた政治暴力を審理するカンボジア・クメール・ルージュ特別法廷を取り上げ、とりわけ法廷に付随して生じた各種の社会的活動に焦点を当てている。これは、現在のカンボジア政府が特別法廷の活動に非協力的であり、社会的にも当該事由にかんする正義概念の解釈が非統一である状況を受けての対象設定である。そこで、法廷による正義の帰趨とは別に、法廷設置が触発するかのような現実の生起を把握し、分析するための視座を提供するよう試みた。20頁(30~49頁)。
10 お骨と死生観――現代日本の葬送における新たな取り組みから単著 2009-03-00『揺れ動く死と生――宗教と合理性のはざまで』(ジャン・ボベロ、門脇健編、晃洋書房) 現代の日本社会では、少子化、家族観の変化、市場原理の浸透といった社会的要因により、葬送の分野においても新たな取り組みが生じつつある。本論では、なかでも「自然葬」、「手元供養」と呼ばれる形態を取り上げ、まず、その具体的な特徴と傾向について整理した。また、視覚的な、あるいは行為としての新しさのみならず、そうした形態に示される、社会意識レベルでの変化が何であるのか、という問いを検討した。考察のポイントは「遺灰の(非)所有」という意味の出現である。21頁(198-218頁)
11 Promoting Collective Engagement in the Khmer RougeTribunals under the Undesirable Conditions: New Social Movements and the 'Community of Becoming' in Cambodia 単著 2010-03-00Proceedings of the Seminar: 'Communities of Becoming' in Mainland South East Asia, Chiang Mai University カンボジアのポル・ポト政権元幹部らを裁く特別法廷は、2006年の設置以降、法廷関係者内部の調整や弁護団側の戦術などにより延期が相次ぎ、その間に国内のいくつかの市民組織が、各地の被害者・加害者双方を法廷プロセスに参入させる活動を展開してきた。本論では、なかでもプノンペンに拠点を置く社会開発センターによる啓発・証言フォーラムを取り上げ、そこにおいて法廷の広報官や検察官と一般市民とがどのような相互作用を繰り広げ、開廷延期が続くなか、法廷をめぐる「正義と和解」に関してどのような意味が生み出されてきているか、という問いを検討した。
12 アパルトヘイト後の南アフリカにおける「紛争と国家形成」単著 2010-03-00『アフリカ・中東における紛争と国家形成』(佐藤章編、日本貿易振興機構・アジア経済研究所) 本稿では、「紛争と国家形成」というテーマに対して、「アパルトヘイト体制下の紛争が、その後の南アフリカ社会における法規範の回復に関して、どのような影響を及ぼし、あるいは機能を果たしたか」という問いを設定し、とりわけ法執行機関の変化を取り上げることから、その問いを検討した。具体的には、コミュニティ・ポリス・フォーラムと呼ばれる警察改革の動向に着目し、その制度の変遷や受容のされ方について報告した。18頁(49-66頁)
13 南アフリカの真実和解再考単著 2010-05-00『紛争解決――アフリカの経験と展望』(川端正久・武内進一・落合雄彦共編、ミネルヴァ書房) 南アフリカの真実和解委員会が活動を終了してから、すでに約10年の歳月が経過した。この活動をめぐっては、当初の高揚感を伴った将来展望、その後の困難を前にしての具体的な活動批判を経て、今では南アの経験をより一般的な文脈から、他国への応用をも念頭においた分析が主流となりつつある。本論ではそうした研究動向も踏まえ、直接的な政策評価を行うのではなく、その社会的影響と集合実践としての新規性を把握する方向性を採用した。「和解させる機関」という前提から出発しがちな従来の議論に対して、「和解を掲げる社会運動」という視点を提示し、多角的な社会変化を認識する必要性を論じた。24頁(255-278頁)。
14 クメール・ルージュ特別法廷と移行期の正義単著 2010-07-00大谷学報 第89巻2号(大谷学会) カンボジアで進行中の特別法廷の現状に関して、法廷内部における法律関係者らの論理、市民社会の側の受容、および法廷の進行プロセスにみられる特徴、の三点から説明した。そのうえで、おそらく一般的には否定的に解釈されるであろう「審理の遅延」や「正当性の不十分な認知」が、こうした法廷の設置される社会状況の特殊性を反映したものではないのか、その特殊性をどのような仮説とともに把握することができるのか、という議論を行った。10頁(45-54頁)
15 紛争後の治安回復――南アフリカのコミュニティ・ポリシング単著 2012-01-00『紛争と国家形成――アフリカ・中東からの視角』(佐藤章編、アジア経済研究所) 地域社会と警察組織の協同関係を通じて治安の回復をはかろうとするコミュニティ・ポリシングは、従来、「ネオリベラルな時代の効率的警察活動の一環」として位置づけられてきた。しかし、紛争後社会に特有の条件からその制度が要請された南アフリカでは、その条件を反映する中心的なアクターを見出すことができる。本論では、そうしたアクターらの反体制解放運動への関与と、体制転換後の政治状況を踏まえ、欧米におけるコミュニティ・ポリシングとは異なる性格を描出すると同時に、紛争後社会の治安部門改革の議論に新たな視点を提供するよう試みた。35頁(137-171頁)。
16 帰還者が喚起するコミュナリティ――カンボジア特別法廷における被害者カテゴリーの創出単著 2012-02-00『実践としてのコミュニティ』(平井京之介編、京都大学学術出版会) 2006年に設立されたカンボジア特別法廷は、ポルポト政権崩壊後30年を経て、当時の政権幹部を裁くものである。しかし、現政権の思惑や予算上の制約もあり、当初期待されていたような審理は実現せず、その課題に対応するかのように、かつて難民としてアメリカへ渡った帰還者が主導するNGO活動が活発化している。本論では、そうしたNGO活動に注目するなかで、社会運動論とコミュニティ論の接点を模索することを目的とした。カンボジアの文化的背景を共有しない外国人でもなく、現政権政党の政治的影響を強くこうむるカンボジア育ちの知識人でもない立場の特殊性と役割について論じた。26頁(311-336頁)。
17 プロセスあるいは触媒としての和解――紛争後社会における和解概念をどうとらえるか単著 2012-03-00「紛争と和解――アフリカ・中東の事例から」(佐藤章編、アジア経済研究所) 南アフリカの真実和解委員会(TRC)は移行期正義に関する様々な論点を提起したが、なかでも、和解の理念をどのように理解することができるのか、という問いは依然として残されたままである。本論では、まずこれまでに提起されてきた理論的な考察を批判的に検討する。特に注目するのが、熟議民主主義や闘技民主主義からのアプローチである。本論は、ポストTRCの論争的な状況を理解しようと試みる点で上記のアプローチと出発点を共有しつつ、ルネ・ジラールの欲望概念を参照することで、当該社会の人々が直面するディレンマを把握しようとする。和解プロジェクトに独特な効果は、元敵対者間の集合的な関係に影響を及ぼす機能として推論されるのである。21頁(19-39頁)。
18 南アフリカにおける和解政策後の社会統合――移民排斥問題とカラード・アイデンティティ・ポリティクスの台頭単著 2012-03-00「紛争と和解――アフリカ・中東の事例から」(佐藤章編、アジア経済研究所) 和解を掲げた政策が実施された後、南アフリカの社会統合はどのような状態にあるのか。この問いを検討するにあたって本論が取り上げる具体的な参照対象は、2008年の外国人排斥暴動と、カラードによるアイデンティティおよび権利主張の運動である。また、和解政策は社会経済的資源の再配分を伴わない点から批判されたが、その代わりにどのような政策がその役割を担っていたのか、そこにどのような特徴が見いだされるのか、注目する。この過程を通じて、「和解政策とは別に行われた資源再配分政策が、和解政策に示される社会統合の理念を希薄化する形で、再配分の適格者とそれ以外という思考を強化した結果、他者とみなされる社会集団を排斥する動きが強まった」とする推論を行った。47頁(127-173頁)
19 参加にともなう公的承認――南アフリカ真実和解委員会とカンボジア特別法廷の事例から単著 2012-04-00『体制移行期の人権回復と正義』(日本平和学会編、早稲田大学出版部) 移行期正義の政策的オプションとしては、正義と平和(あるいは和解)という方向性が二項対立的に捉えられてきた。それは、実際には裁判かそれ以外か、という具体的な選択施の対比として表れる。この論考では、その二者を代表するものとして南アフリカとカンボジアにおける取り組みを取り上げ、活動の特徴や従来提起されてきた批判的言説などを比較検討した。その結果、一見すると相容れない二つの方向性同士には、移行期正義が実施される社会的文脈に起因する共通する困難・課題のあることが明らかになった。いずれの方向性を採るにせよ、法的基盤の希薄な社会においては、社会構成員の広範な動員の可否が政策評価の重要な基準となりうる点を指摘した。18頁(23-40頁)
20 Reconciliation as Process or Catalyst: Understanding the Concept in a Post-conflict Society単著 2012-12-00Comparative Sociology 11(6), 2012 (Brill) 紛争後社会・移行期正義における社会レベルの和解は、実務の現場ではその使用が一般化しているものの、政治学をはじめとして社会学・心理学・紛争解決論の分野において、依然として解釈の一致が見られていない特殊な概念である。近年では、和解政策後の社会状況を踏まえた理論的展開が模索され、「何らかのゴールとして設定された和解が実現したかどうか」という議論の次の段階が検討されている。こうした動向のなかで、本論は「和解政策がどのような社会的反応を喚起したか」という視点(触媒的アプローチ)の重要性を主張し、ジラールの欲望論を参照しつつ類似する政治哲学的な議論との差異化を図った上で、ポスト和解政策後の南アフリカの状況を取り上げて実証の試みを行った。30p.(pp.785-814)
21 Perceptions of the Khmer Rouge tribunal among Cambodians: implications of the proceedings of public forums held by a local NGO単著 2013-03-00South East Asia Research vol.21 no.1 (IP Publishing) 2006年に開廷したカンボジア特別法廷は、7年経過した段階で一つしか判決が出ていない。この状況において、多くのカンボジア人は法廷に対する懐疑あるいは無関心を示すようになっている。しかし、この傾向は必ずしも公判のプロセスのみを反映したものとはいえない。この点に関して、本稿では法廷設置後、ケース1の判決が出るまでの時期に実施されたローカルNGOによる証言集会を事例に、そこでどのような質疑が、法廷の裁判官・検事・弁護士とローカル参加者との間で交わされていたか、検討することを通じて考察を試みた。結果として、法廷を批判する参加者は、正義の追求という方向性には同意しつつも、特別法廷の権限に不同意を示す傾向が確認された。被告と対象期間の限定、また、そもそもクメール・ルージュ時代の虐殺は「カンボジア人が引き起こしたものだ」とする前提的なフレームワークから法廷の中立性を疑う言説に注目した。22p.(pp.5-26)
22 Is Transitional Justice as a Potential Failure? Understanding Transitional Justice based on its Uniqueness単著 2013-10-05African Potentials 2013:Proceedings of International Symposium on Conflict Resolution and Coexistence (Center for African Area Studies, Kyoto University) 冷戦以後、アフリカ各地における内戦は、それに続く移行期正義プロジェクトの実施とともに注目を集めてきた。本論文では、特に南アフリカ・シエラレオネ・ルワンダで行われた事例に対する当事者および研究者の間で蓄積されてきた批判的言説を整理することから、タイプの異なる移行期正義プロジェクトに共通する問題点を探ろうとした。主要な議論のひとつは、紛争後社会では法規範と社会秩序が不安定であり、移行期正義の理念や目的、権威も国民には共有されておらず、結果として、活動を通じて正当性が拡大することを期待する社会運動的な性質を帯びる、というものである。17ページ(17-33ページ)
23 南アフリカにおける和解政策後の社会統合――カラード・アイデンティティの再構築単著 2013-12-00『和解過程下の国家と政治――アフリカ・中東の事例から』(佐藤章編、アジア経済研究所) 南アフリカにおける体制転換後の和解政策が実施されてから10年以上経過した現在、人種カテゴリー間の格差是正を目的とする再配分政策が新たな軋轢を生むことになっている。この論文では、非白人とされるグループのうち、カラードの政治的な位置づけに着目する。そして、メディアにおける論争、カラードに対する「新たな人種差別」訴訟、格差の状況を表す経済指標等を取り上げ、かつての和解政策の効果が、そうした再配分政策の帰趨によって否定的な影響をこうむっている趨勢を指摘した。38頁(59-96頁)。
24 マンデラの笑顔は問いかける――和解政策というアート単著 2014-02-00現代思想第42巻第3号 ネルソン・マンデラ晩年の業績として第一に挙げられているのが、アパルトヘイト体制終焉後の国民和解政策である。従来、とりわけメディアにおいては、マンデラ自身が27年間不条理な服役後にそうした政策を実施した点から、人種融和の理念を体現したものである、とする評価が一般的である。しかし、南アフリカ国内の論調を詳しく跡づければ、マンデラ政権の和解政策に対しては、むしろ多様な批判が一般的であることに気づかされる。この論文では、相互理解・協調という意味での「ゴールとしての和解」観ではなく、「和解を政策目標とすることの効果」をどのように理解することができるのか、という視点から、同政策の戦略的な側面を指摘した。10ページ(152-161ページ)。
25 Transitional Justice Destined to be Criticised as Failure: Understanding its Uniqueness from African Cases単著 2014-09-00Ohta, I. et al. eds. Conflict Resolution and Coexistence: Realizing African Potentials.
African Study Monographs Supplementary Issue 50, 205pp
アフリカ各地でこれまでに行われてきた移行期正義プロジェクトを批判的に検討する際に、常に取り上げられる論点が、当該社会構成員の動員の成否である。法的な規範が十分に機能しておらず、新政府の正当性も確実に共有されていない社会では、正義や和解のような理念それ自体は、移行期正義プロジェクトに対する承認と参加を保証しないのである。本論では、南アフリカ、ルワンダ、シエラレオネのケースに着目し、法的基盤を持ち政策として実行される移行期正義の影響や効果を理解するには、政策としてよりもむしろ社会運動的な側面から考察する必要があることを論じた。21p. (pp. 3-23)
26 Standing by/for Their Own Feet: African Soccer Players in Cambodia単著 2014-12-00Mine Y. and S. Cornelissen eds., Africa and Asia: Entanglements in Past and Present (Conference Proceedings, GRM Program, Doshisha University) 国際大会におけるアフリカ人サッカー選手の影響力の急速な拡大によって、ヨーロッパにおけるサッカー移民に関する研究も急速に進展している。その一方で、アジア地域におけるアフリカ人選手に着目するものは萌芽的であり、ほとんどない。この報告ではカンボジアにおけるアフリカ人選手の動向を報告し、彼らの動機、ホスト社会への適応、また東南アジアにおけるサッカー市場に対する影響力に関して考察を行った.
14p. (pp.201-214)
27 Mediated multinational urbanism: a Johannesburg exemplar共著 2016-03-00Social Dynamics (Routledge)42(1)
DOI: 10.1080/02533952.2016.1158483
アパルトヘイト後の南アフリカは、その経済力によってアフリカ各地からの移民を引き寄せる一方で、2008年5月の一連の事件に見られるような排他主義的な暴力も頻発する状況にある。この論文では、そうした移民が住民構成の過半数に上るとみなされるジョハネスバーグのヨービル地区を取り上げる。過去20年にわたるアフリカ人移民の急速な増加にもかかわらず、これまで暴力的な衝突が生じていない事実からヨービルが着目されるのである。とりわけ、そこに生じる移民と南ア住民の関係性を、戦略的コミュニケーションという概念にもとづき説明した。
Obvious Katsaura との共著。16p. (pp. 106-121).
28 Ebb and flow of assemblage in Cambodian NGO movements: Diaspora returnees' human rights initiatives on the Khmer Rouge Tribunals単著 2016-03-00Shigeharu Tanabe ed., Communities of potential: Social Assemblages in Thailand and Beyond (Silkworm books) カンボジアの特別法廷は、その長期にわたる審理を通じてローカルNGOによる多様なインプットを得てきたが、そうした活動を主導した二つのNGOのリーダーは、内戦中にアメリカへ逃れた元難民であった。この論文では、帰還した彼らが、アメリカでの経験とスキルにもとづいてローカルの同胞へ働きかけを行い、動員していく過程を、特別法廷の公式のアウトリーチとは異なる回路として把握し、その性格をアセンブレッジというキーワードにより位置づける。多様な意見やアイデンティティを有する人々を繋ぎ、ユニークな集合性をもたらすそれは、また、政治的に不安定な社会状況のなかで変化を余儀なくされる。この論文は、注目したNGOの性格と運動の方向性の違いから、二つの異なる形でそうしたアセンブレッジが消失していった過程を跡づけた。4章分担執筆。pp. 85-104
29 Creating Space for Productive Deviance: The Latent Function of the Truth and Reconciliation Commission of South Africa単著 2016-03-00Sam Moyo and Yoichi Mine eds., What Colonialism Ignored: ’African Potentials’ for Resolving Conflicts in Southern Africa (Langaa RPCIG, Cameroon) 武力的なものを含め、さまざまな紛争に対する対応策はどの社会にも備わっている。しかし、近代化の進んだ社会で用いられる紛争解決という考え方は、ポスト・コロニアルのアフリカ諸社会における紛争対応とどのような相違点を持つのだろうか。この論考では、体制移行期の南アフリカにおける国民和解政策を取り上げる。そこで展開していたのは、あらかじめ定められたゴールに到達することを解決とみなす関係ではなく、敵対意識を伴いつつも変化していく、いわば「ある形で解決しない」関係性の創出である点に注目した。pp. 173-202.
30 創造的な逸脱の許容――南アフリカ真実和解委員会と移行期正義単著 2016-03-00遠藤貢編『武力紛争を越える――せめぎ合う制度と戦略のなかで』(京都大学学術出版会)、第7章分担執筆 アフリカにおける紛争解決へ向けた潜在力というテーマの下で、南アフリカの体制移行を主導した和解政策を再検討した。南アフリカの取り組みに対しては、その公式目標に照らし合わせて成功か失敗かを論じる視点が多い一方で、政治哲学的なフレームワークから、その活動の(副)産物に注目しようとする研究も増えている。本論文は、南アフリカの取り組みを理解するにあたり、そうした先行研究と基本的な方向性を共有し、さらに、南アフリカの歴史的・社会的条件のなかから、より積極的に「創造的な逸脱」と呼びうる状況が発現していた側面を指摘した。28p. (pp.211-238).
31 Social cohesion against xenophobic tension:A case study of Yeoville, Johannesburg共著 2016-06-00African Study Monographs, 37(2) ジョハネスバーグのヨービル地区は、南アフリカの中で最もパンアフリカンな性格を体現しているといっても過言ではない。民主化後には、南アフリカ国内からも南アフリカ人が流入し、まさに「住民の多くがニューカマー」といいうる状況が現出した。ヨービルはまた、その外国人移民のプレゼンスに関わらず、2008年以降問題化している排外主義的な事件が生じていない点でも注目されている。この論文では、政治家や自治体関係者でない「ストリート・レベルの橋渡し役」が、外国人移民と南アフリカ人住民の間をどのようにつなぎ、緊張緩和を図っているか、主としてエスノグラフィックなデータの提供を行った。Obvious Katsauraとの共著。19p. (pp.55-73.)
32 過去に触れつつ遠ざける――移行期正義における記憶表象単著 2016-12-00時間学研究(第10巻) 移行期正義研究の主要な潮流は、各プロジェクトの成否を当該コンテクストにおいて検討するというものだが、移行期正義につねに付随する条件を念頭に置くなら、また別のアプローチも要請される。その条件とは、不十分な予算と人員、不十分な(準備・実施)期間、そして表向き賛同しつつも実際には活動の遂行に対して後ろ向きなさまざまな現地アクターの存在である。本論はこうした条件を踏まえ、むしろ、法廷・真実委員会・メモリアル施設といった移行期正義のバリエーションに対して、個々のケースがどのような中途半端さや不十分さを持っており、それを当該移行期社会の状況に照らし合わせるなかで、どのようなユニークネスとして再認識することができるか、という観点を提示した。pp.1-20.
33 解決よりも触発を――不透明な時代の社会学単著 2017-01-00大谷学報(96巻1号) 途上国と先進国、あるいは安定した社会と紛争後社会といった区分にかかわらず、現代社会に共通する課題のひとつが不確定性への対処である。その不確定性は、因果論にもとづく見立てによって現実をコントロールできないという形であらわれる。社会学理論では、意図せざる結果やパラドクス、曖昧な要素の機能として、しばしば論考の対象となる現実である。本論では、この不確定性に取り組む現代的な事例として、紛争処理政策や広告、バーチャル・リアリティの装置制作に触れ、それらが「特別な曖昧さを設定することにより、対象の能動性を引き出す」、いわば触媒としての効果を期待される働きかけである点で共通性があることを指摘した。19頁(41-59頁)。
34 African Football Players in Cambodia単著 2018-01-00pp. 231-245 in Migration and Agency in a Globalizing World (Scarlett Cornelissen and Yoichi Mine eds., Palgrave Macmillan) 成長著しい東南アジアのフットボール市場において、カンボジア・リーグは、海外リーグからの移民選手の活躍によって、そのプレーのレベルと国内における人気の両面を急上昇させる過程にある。本論では、そうした移民選手たちの中心に位置するアフリカ人選手たちに着目し、彼らのインフォーマルなネットワークや、東アジア・ラテンアメリカ等から参入する移民選手とのライバル関係などを取り上げ、成長期にある新興フットボール市場の特徴を把握しようと試みた。15ページ。
35 Specific Incompleteness Elicited Complementary Action: Unexpected Legacy of the South African TRC共著 2018-03-00African Study Monographs 39(1): 1-26 移行期正義プロジェクトの今日的課題としては、当該社会における影響をより実質的に認識・判定するために、どのような視点がとりうるか、というものがある。本論文では、ポストTRC(真実和解委員会)期の南アフリカを取り上げ、かつて批判の的とされることもあった「活動に伴う不十分さ」が、どのようにして市民社会からの能動的な働きかけを引き出すことになったのか、明らかにした。Zenzile Khoisanとの共著。26ページ。
36 南アフリカの移行期正義とその後――和解・ローカルオーナーシップ・意図せざる結果単著 2019-03-00『国際問題』No. 679, pp. 36-47 移行期正義分野の生成と発展に寄与した南アフリカのケースについて、その概要と特徴を紹介し、活動終了後の南アフリカ社会においてどのように評価されているか、またどのような影響を及ぼしてきているか、という点について論じた。そこから見て取れるのは、理念的な取り組みとして注目される活動であっても特有の制約を受けるということであり、にもかかわらず、公式のプログラム外部に生じる肯定的な可能性である。本論では、こうした観点に関して、近年の移行期正義研究で着目されている「意図せざる結果」論の枠組みを参照し、検討を加えた。
37 カンボジア・サッカーのグローバル化単著 2019-03-00真宗総合研究所研究紀要(36号) カンボジアのプロサッカーリーグが近年どのように発展しているかという問いを、同地域に特有の社会条件とグローバル化という観点から検討した。具体的には、外国人アクター(とりわけ日系アクター)の関与と、カンボジア社会でサッカーに与えられている役割に注目した。31―44頁。
38 Introduction単著 2019-04-00pp.1-30 in The Khmer Rouge Trials in Context (Toshihiro Abe ed., Silkworm books) カンボジア特別法廷の設立経緯、活動内容、移行期正義分野における同法廷の位置づけ、本論集の理論的な位置づけ、および全体の構成・各章の概要を整理・紹介した。
39 Hybridity and the ECCC共著 2019-04-00pp.127-150 in The Khmer Rouge Trials in Context (Toshihiro Abe ed., Silkworm books) 本論では、まず特別法廷の制度的特徴であるハイブリッド・システムについて、そのアイディアが選択された背景と制度的なメリット(として期待されたこと)を整理した。そして、類比しうる他国の事例(シエラレオネ、コソボ、東ティモール、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、レバノン)と、ローカルオーナーシップの制度化という点について比較を行った。その上で、カンボジア法廷における国内・国外アクター間の相互作用を検討し、ハイブリッド・システムが運営され、法廷の審理期間が長期化すること自体が、実質的な目的・目標を異にする複数アクターにとって不可視の接点となっている側面を指摘した。Mosseny Soとの共著。
40 Participating in a National Drama: A Reflection on Local Contradictory Attitudes toward the Court Process共著 2019-04-00pp.195-226 in The Khmer Rouge Trials in Context (Toshihiro Abe ed., Silkworm books) カンボジア国内司法における法の適正手続き、あるいは当該社会における法の支配については、これまでに批判的な研究が蓄積されている。にもかかわらず、特別法廷を支援するローカルNGOのアウトリーチが展開するにつれ、多くの人々が積極的に関わるようになった。人々は司法に対する不信を抱いているのではないのか。なぜそのような矛盾した行動に出るのか。本論では、ドラマトゥルギー論の枠組みを用いて、国際司法の文脈から公式に供給される意味と、ローカルの状況における意味のずれに注目した。また、そのような意味の二重化(あるいは当該社会内部における公式/非公式の位相を加えると三重化)が生じているために、法廷の公式目標に照らし合わせた効果の測定が、当該社会に対する影響を考える上で直接的な有効性を持たない点をも指摘した。Leang Sokとの共著。
41 Local Khmer Media Representations of the Khmer Rouge Tribunal in 2010-2011共著 2019-04-00pp.227-254 in The Khmer Rouge Trials in Context (Toshihiro Abe ed., Silkworm books) 特別法廷のアウトリーチは、国内各地からのビジターを受け入れる一方で、各地へ出向いてフォーラムを開催するベクトルも持っている。公判を傍聴する人々以外にも法廷に触れてもらう機会を最大化するためである。しかし、それでも人数は限られており、そこにローカルメディアが不可欠の役割を担うことになる。この章では、特別法廷のプロセスをフォローするテレビ特番と新聞を取り上げ、与党/野党寄り、あるいは法廷内部の詳細を報じるか否か、シンボリックな側面をどの程度重視するか、といった観点から検討した。結果として、法廷内部の動向を詳しく報じる姿勢は様々な問題点を提示することになり、他方で法廷は象徴的なイベントであるとする論調を採用する姿勢は法廷に対する政府の認識を反映することになり、いずれにしても否定的なフレームを構築する材料を提供することになるというジレンマに注目した。Sam An Vong Emとの共著。
42 Reflections on the Extraordinary Chambers in the Court of Cambodia単著 2019-04-00pp.279-292 in The Khmer Rouge Trials in Context (Toshihiro Abe ed., Silkworm books) 論集各章で議論された論点のそれぞれについて、移行期正義研究の文脈に位置づけなおし、また、そうした論点が移行期社会としての当該社会におけるどのような側面・特徴を表すものであるのか、明らかにした。
43 東南アジア・メコン地域におけるアフリカ人サッカー選手――役割期待・リスク・戦略単著 2019-05-00フォーラム現代社会学(第18号) 東南アジア・メコン地域のサッカーリーグでは、アフリカ出身の移民選手は独特のイメージと役割を与えられ、また彼らの側も、新興リーグであるがゆえに可能となる独特の戦略とネットワークを発展させてきている。本論では、彼らがどのような環境のなかで、どのようなリスクを負い、どのような生存戦略を展開しているのか、従来の欧州を中心としたサッカー移民研究と比較させながら論じた。31-44ページ。
44 設計図のない建築――サグラダ・ファミリア建設の軌跡にみる集合的創造性単著 2021-02-00松田素二編『集合的創造性』(世界思想社)第3章分担執筆 サグラダ・ファミリア建設過程における「設計図の不在」に着目し、その場に関与する職人や専門家の認識と探求を通じて、計画性と非計画性の中間で展開する集合的創造性の位相を論じた。21頁(85―105頁)
45 ソフトレジスタンス論の射程――集合的なプレイとコンヴィヴィアリティ 単著 2021-03-00松田素二・阿部利洋・井戸聡・大野哲也・野村明宏・松浦雄介編『日常的実践の社会人間学――都市・抵抗・共同性』(山代印刷出版部) 松田素二のソフトレジスタンス論とデイヴィッド・グレーバーのアナーキスト人類学は、いずれも1980年代以降に国家的ガバナンスの低下により生活世界の再編を余儀なくされたケニアとマダガスカルの人々の調査に基づき理論化されている。両者ともに行政権力に対する自律を維持するための対抗策に注目するが、一方でそうした行為には(具体的な権力者/組織ではなく)近代システムからの自由を志向する性格、および「集合的に行為する側のドグマ化を回避する」点が議論されている。本稿では、両者の議論でカギとなる概念のうちプレイとコンヴィヴィアリティを取り上げ、その理論的接点を指摘した。12頁(131―142頁)
46 Competing Local Knowledges of an Indigenous Plant: The Social Construction of Legitimate Rooibos Use in Post-Apartheid South Africa 単著 2021-03-00Mitsugi Endo, Ato Kwamena Onoma & Michael Neocosmos eds., African Politics of Survival: Extraversion and Informality in the Contemporary World (Langaa RPCIG), chapter contribution (Ch.3) 南アフリカのルイボスは、ワインと並ぶ主要産品のひとつであるが、固有種であることから、ポストアパルトヘイトのナショナル・シンボルとして位置づけられるようになっている。この動きについては、外的要因としては名古屋プロトコル以降の伝統的知識と先住民の権利に関する国際的な文脈や欧米企業による知的財産をめぐる戦略的な働きかけがあり、国内要因としてはアパルトヘイト期から続くアフリカーナーとコイサンの関係に加え、ポストアパルトヘイトにマジョリティとなったアフリカ人の政治的ポジションが、南アフリカに独特な状況を形成してきた。本稿では、利益再配分をめぐる近年の政策的動向を踏まえ、グローバルな広報戦略に関する視点から、先住民のエンパワメントを志向する政治の方向性について考察を加えた。pp.69-98
47 移行期正義の社会学――集合行為の意図せざる連鎖を通じた社会的回復の可能性 単著 2021-12-00社会学評論72巻3号 本稿は、移行期正義(TJ)に関するさまざまな定義・解釈を整理したうえで、その制度的バリエーションに共通して確認される特徴を、TJの制度設計を支える「公式シナリオ」を認識することから把握するとともに、一連の活動を「期待される集合行為のパターン」から整理する図式を提示する。次に上記の特徴に着目する実証研究を取り上げ、「公式シナリオ」に対する現地社会の対応に見られる逸脱や派生的な取り組みの実態と意義に焦点をあてた。そこで提起される論点が、TJを通じた公的な期待は必ずしも実現しないが、紛争状況への後退は回避される形で秩序の再構築へ向けた自律的な取り組みが促進される可能性である。16頁(208‐223頁)
48 集合的アイデンティティの経時的変化――ASEAN諸国のサッカー代表選考の動向から 単著 2022-02-00山口大学時間学研究所編『時間学の構築Ⅳ 現代社会と時間』(恒星社厚生閣) ASEAN地域のサッカー各国代表のレベルは近年急速に高まってきており、その要因のひとつとして、(主に)欧州で育成を受けた有力選手の招集を通じた代表強化策を挙げることができる。こうした動向は「オリンピック用の市民権付与」や「市民権の商品化」と批判される外国人選手の引き抜きとは異なり、選手の親(のいずれか)が選出国にルーツを持つ――移民2世のIターンである――点に特徴がある。なぜ近年、ASEAN地域でこうした代表強化策が連鎖的に採用されているのか。この問いに対して、本論では、Iターンをする選手、強化をリードする各国協会/連盟、この状況を肯定的に受け止めるファン/メディアのそれぞれの立場が示す期待やニーズを取り上げ、それぞれに異なる思惑が一致する社会的条件を考察した。65-98頁(34頁)
49 シリアにおける移行期正義の限界と可能性――クルド民族主義PYDによる自治の試み 共著 2022-02-00今井宏平編『クルド問題――非国家主体の可能性と限界』(岩波書店) 2011年の「アラブの春」以降シリアに波及した民主化運動を端緒とする10年に及ぶ内戦は、紛争の勝敗確定も国民和解の成立もないまま、当事者たちが支配地を確保し、戦略的な分離・自治による勢力均衡を生み出すことで紛争収束(膠着)というべき現状に至っている。この論文では、その和平・停戦プロセスに対して提起されてきた移行期正義の主要アプローチを整理し、そこにおいて上記プロセスの帰趨に影響を与えたクルド民主統一党(PYD)の動向・政治的役割を分析した。青山弘之・阿部利洋。29頁(53‐81頁)。
50 スポーツ外交に関する現代的な認識枠組の比較検討――ソフトパワー、パブリック・ディプロマシー、ネイション・ブランディング 単著 2022-03-00大谷大学真宗総合研究所研究紀要 (39) 近代的なスポーツ外交に関する研究においては、国家プロパガンダや体制の正当化が中心であった冷戦期以降、昨今では、ソフトパワー、パブリック・ディプロマシー、ネイション・ブランディングという概念・認識枠組が用いられるようになりつつある。本論は、「古典的なスポーツ外交のバリエーション」と「現代的な対外政策に要請されるスポーツの機能」の相違点を整理したうえで、これまで十分に検討されてきていない上記3つの枠組相互の関係を明確化した。115-161頁
51 Glocal Assemblage in Community Movements: Transforming Collective Actions in Cambodian Land Rights Movements単著 2022-04-00Ryoko Nishii and Shigeharu Tanabe eds., Community Movements in Southeast Asia: An Anthropological Perspective of Assemblages (Silkworm Books) 2000年代のカンボジアでは、農業の近代化を求める世界銀行やEUの後押しもあり、国内の農地・森林地域を国内外の企業に長期利用させる経済的土地コンセッション制度が推進された。一方で、立ち退きを不当とする農民・住民の土地返還運動は、2010年代には多様なバリエーションを伴い展開した。本論では、政治的制約が亢進する状況のなかで、グローバルな政治運動を参照する活動から、グローバルな機関に異議申し立てを行う活動へと、運動レパートリーの基本的性格が変化した過程に注目した。pp.267-300
52 植物遺伝資源に関する集合的な創造性の制度化――複数のグローバル規範の相互作用と変容単著 2023-09-00大谷大学研究年報(大谷学会)No.75 2019年に、南アフリカ政府・先住民コイサン組織・生産者団体の間で、ルイボスの商業的利用に伴う利益配分合意が締結された。この論文では、その合意成立の主要な論点であった伝統的知識概念について、その制度化の歴史的背景を踏まえたうえで、従来、南北問題あるいはポストコロニアルのポリティクスという側面から認識されてきたこの問題を、集合的創造性の制度化という観点から検討を加え、また地理的表示制度との関連も指摘した。pp. 1-56
以上52点
Ⅲ 口頭発表・その他
1 社会を癒すことは可能か口頭発表 2000-07-00野間アジア・アフリカ奨学金帰朝報告会(於・講談社本社ビル) 同奨学金による2年間の南アフリカ留学・調査の帰朝報告。現地での具体的な観察と直接的な印象を、行政レベルの活動と地域コミュニティの困難を対比させながら報告した。とりわけ、時限立法にもとづく委員会と委員の権威が前提的に成立していない状況において、どのような広報・住民組織のメカニズムが活用されたのか、という点について詳細な事例紹介を行った。発表時間60分
2 記憶表象と和解――南アフリカの事例から口頭発表 2001-05-00第52回関西社会学会大会(於・桃山学院大学) アパルトヘイトの被害者による証言は、公的なメカニズムのなかで記憶を形作ることであると同時に、エスニシティの内実を再定位するものである。紛争の記憶を背後にもつエスニック・アイデンティティと、新生国家における同一国民としての民族関係の相克に対して、いかなる折り合いをつけうるのか。報告では、この問いの思想史的意義とエスニシティ概念に関する社会学的現実との接点を検討した。発表時間20分
発表要旨 第52回関西社会学会大会報告要旨(関西社会学会)、85頁
3 合意形成メカニズムにおける宗教的要因――現代南アフリカの試みから報告書 2003-03-00平成13年度研究・活動助成報告集(庭野平和財団) 国際社会における宗教と社会(ないし政治)の関係については、否定的な見解が示される事例が増えている。そのなかで、紛争後社会の再建に宗教的要因が間接的な効果をもたらした南アフリカの事例は、宗教に関するあらたな知見をもたらすのではないかと論じた。同時に、当該テーマを考察する際の理論的位置づけを図るため、従来の宗教社会学説を整理することも試みた。6頁(41頁~46頁)
4 現代南アフリカ政治におけるキリスト教的理念の変容――和解の模索を中心に口頭発表 2003-06-00日本アフリカ学会第40回学術大会(於・島根大学) 真実委員会を擁護する言説は、ともにクリスチャンである二人の委員会関係者によって体現されてきた。両者の言説には、文化的シンクレティズムと政治的世俗主義の差異も見出される。とはいえ、いずれもキリスト教的な背景を持ちつつ、アパルトヘイトという社会的・歴史的困難を通じて変化せざるをえなかった側面を示してもいる。そして、一見矛盾する両言説の並存に、独特な社会的機能を認めることができることを示した。発表時間15分
発表要旨 日本アフリカ学会第40回学術大会研究発表要旨集(日本アフリカ学会)、94頁
5 社会的和解をめぐる相克――南アフリカ・真実和解委員会活動後の課題評論・時事解説 2003-09-00アフリカレポート37号(アジア経済研究所) 2003年3月に真実和解委員会最終報告書が公刊されたことを受けて、和解という理念をめぐるポスト真実委員会期の課題を具体的に検討した。とりわけ「さまざまな意見や視点の相克がどのように現れているか」という点に焦点をあてることから、委員会が直面した困難の質を把握しようとした。また、委員会研究部長による「対話・交渉のメタファーとしての和解」という考え方を紹介しながら、その限界についても検討を加えた。4頁(48頁~51頁)
6 修復的司法における告白と救済口頭発表 2003-10-00第76回日本社会学会大会(於・中央大学) 1990年代以降、修復的司法と呼ばれる試みが、ニュージーランドや北米社会の刑事司法分野で実践されるようになった。当事者の和解を模索する過程を通じて再犯予防を期待する同プログラムは、癒しの理念や心理療法的なルーツから理解されることもある。そうした語りの環境は、フーコーが論じた告白装置とは幾分異なる要素をもっており、そこに告白と救済の図式に関する現代社会の特質を見出せるのではないかと論じた。発表時間15分。
発表要旨 第76回日本社会学会大会報告要旨(日本社会学会)、167頁
7 TRC証言と歴史表象――加害者・被害者の対面状況から口頭発表 2004-03-00「20世紀初頭の大英帝国とアフリカ」研究会(於・国立民族学博物館地域研究企画交流センター) 真実和解委員会(TRC)をアパルトヘイト時代に関する公的な記録組織として考える場合、むしろ、前体制が記録を隠蔽・秘匿した方法を発掘する組織として理解する必要もある。また、TRCによる積極的なメディア使用の実態を報告するとともに、被抑圧者側と植民者側それぞれに属する人種・民族集団の記憶をどのような形で歴史表象に取り込むのか、という「ポスト・アパルトヘイトの社会史制作」問題についても検討した。発表時間60分
8 移行期社会と宗教の変容――南アフリカにおける和解の模索口頭発表 2004-06-00「多元的世界における寛容性についての研究」会(於・京都大学文学部) 南アフリカにおける政権交代は、武力行使を通じた勝敗決定による紛争終結ではなかったために、その後の紛争当事者たちの扱いは一括免責と徹底した訴追の間で揺れ動くことになった。このような移行期社会の特質は、法的裁定を無条件に前提にすることができない状況を示唆する。そのような状況下で、宗教的なルーツも指摘される修復的司法方式のプロジェクトが効果をもった点について報告した。発表時間60分
9 対話の逆説と和解の理解口頭発表 2004-07-00「殺戮後の歴史和解プロセスの法理」研究会(於・慶応義塾大学北新館) 2001年にケープタウン・正義和解研究所により実施された社会意識調査は、政権移行後数年経過した南アフリカ社会では、人種感情や補償政策に対して必ずしも肯定的ではない結果が示すものだった。報告では、和解という理念について、「和解という用語で指示しうる現実はどういうものか」という問いの方向性を設定し、その上で(司法的な調停とは別に)「相互行為を通じた間接的な和解のあり方」について検討した。発表時間60分
10 紛争後社会の特質と課題――現代的な紛争収束をめぐって口頭発表 2004-11-00第77回日本社会学会大会(於・日本社会学会) 「紛争後」あるいは「移行期」という類型論的規定がなされる社会状況に対して、社会学的な検討を行う際に、重要な参照点となる要素は何か?という問いを考察した。このテーマへの関心は、従来、具体的な活動形態をめぐって表明されることが多かった。それに対して、社会学的な視角から、「法的規範の機能不全」、「公的領域におけるトラウマの前景化」という概念が有効なのではないかと提案した。発表時間15分
11 南アフリカ真実和解委員会の独自性と課題――他国における活動との比較から口頭発表 2005-01-00平和構築研究会(於・名古屋大学大学院国際開発研究科) 世界各地で取り組まれてきた民族・武力紛争後の和解をめぐる事例に関して、もともと「真実(和解)委員会」というカテゴリーが一貫して認識されてきたわけではない。この分野における慣例的規定が、おおよそ南アフリカのプロジェクトが計画・実行される過程と並行して、一般概念として膾炙したものとされる。この報告では、南アフリカの事例を中心に取り上げつつ、その前後に行われた各国の事例との比較を行った。発表時間60分
12 移行期社会と宗教の変容――南アフリカにおける和解の模索報告書 2005-03-00『人文知の新たな総合に向けて 第三回報告書上巻』(京都大学大学院文学研究科21世紀COEプログラム「グローバル化時代の多元的人文学の拠点形成」編) アパルトヘイト後南アフリカを対象に和解概念を考察する場合、その概念にはキリスト教的な背景を見出すことができる。しかしその顕現形態は間接的かつ入り組んだものである。この報告では「宗教の変容」、「宗教の復活」等の分析概念を参照し、さらに宗教多元主義や宗教間対話といった問題設定とも重ね合わせるなかで、南アフリカにおける和解の模索は新たな分析視座を提供するものであることを指摘した。6頁(330頁~335頁)
13 Search for Reconciliation in a Transitional Society: The South African Case口頭発表 2005-03-00第19回国際宗教学宗教史会議世界大会(於・高輪プリンスホテル) 南アフリカの和解プログラムは、その後、国際紛争収束へ向けた一つの可能的オプションとしての立場を確保しつつある。異なる社会にそのプログラムの適用可能性を探る際には、南アフリカの社会的独自性と、プログラム自体の汎用性をどこで見極めるかが重要な論点となる。この報告では、その境界画定を、キリスト教的背景をもちつつも文化的・政治的側面を強調することからプログラムを支えた価値観を参照するなかで検討した。発表時間20分
14 変化の中のアフリカ――進む民族の和解と対話その他 2005-08-00NHK国際放送局英語番組 44minutes’(於・NHK国際放送局) 同番組夏期4回特集「変化の中のアフリカ」のうち、3回目を担当。南アフリカの真実和解委員会について、スタジオからの質問5問に回答した。内容は以下のとおり。「真実和解委員会設立の背景は?」、「活動開始から8年が経過した。一般の人々にどのような形で活動が浸透したか?」、「現在、南アフリカ内での評価は?」、「和解することの難しさは?南アフリカを例に」、「今後どのような進展をたどると思うか。その際最も大切なことは何か」。報告時間15分
15 社会的な和解に関する社会学的一考察講演 2005-10-00大谷大学文学部社会学科公開講演会(於・大谷大学文学部社会学科) 社会的な和解を考える際に、心情的な側面が重視される個人的な和解についての考えを拡大することができるだろうか。本報告では両者を区別することを出発点とした。そして「集合的な和解をどのように考えることができるのか」という問いかけに対して、道徳論的あるいは政治学的な視点とは異なる角度から考察し、ひとつの社会学的な回答を得ることを目的とした。報告時間40分
16 語りえぬ真実――真実委員会の挑戦単訳 2006-10-00平凡社 真実委員会研究の第一人者であるプリシラ・B・ヘイナーによる概説書、Unspeakable Truths: Facing the Challenge of Truth Commission (2001) の全訳と解説。真実委員会とは、過去の人権侵害を調査し、その傾向や特質を記録し、分析・報告する目的で立ち上げられる政府機関であり、これまでに約30の委員会が設置されてきている。本書は、各委員会の比較を通じた全体的な見取り図の提示と、問題点をも含めた実践的な分析により、この分野の基本文献として評価されている。総頁数484頁
17 お骨と死生観――現代日本における葬送の新たな取り組みから口頭発表 2006-12-00大谷大学真宗総合研究所・フランス国立高等研究院共催シンポジウム『宗教と近代合理的精神――日仏文化の比較をとおして』(於・大谷大学) 自然葬や手元供養など、葬送儀礼の世俗化と呼びうるような近年の変化を取り上げ、「それがどのような価値観や社会状況の変化を反映するものであるのか」、「実際のところ(外見にとどまらない)何が新しいのか」といった問いにたいして考察を加えた。報告時間30分
18 修復的司法を通じた人間関係の再構築口頭発表 2007-12-00「東アジア・東南アジア地域におけるコミュニティの政治人類学」研究会(於・国立民族学博物館) 近時、近代刑法に関する疑問や異議申し立てを反映するかたちで、修復的司法と呼ばれるプログラムが関心を集めている。報告では、まず修復的司法が実践されるようになった経緯を紹介し、それが昨今のいかなる社会的条件に対応したものであったのかを確認した。次に、プログラムが実行される現場におけるコミュニケーションや人間関係の性質に着目し、共同研究課題であるコミュニティ概念に関する含意がどこにあるのか、について考察した。報告時間90分。
19 真実委員会と和解の問題口頭発表 2008-01-00中部人類学談話会・東南アジア学会共催セミナー(於・椙山女学園大学) 紛争後社会における和解の問題について、とくに南アフリカと東ティモールで行われた真実委員会の比較を通じて考えることを目的とした。南アフリカのケースは、この種の活動に特赦の制度を持ち込んだ点で注目される一方、東ティモールのケースは伝統的な紛争処理の形態を援用した取り組みとして位置づけられている。ここでは、両者の政治的背景の違いが把握されるとともに、和解という概念が「政治的な合意なのか文化的な形式なのか」、あるいは「単一の規定を受けるのか複数の要素から解釈されるのか」といった共通の論点も浮かび上がる。報告では「和解の概念は法的に定義されない」という特徴に焦点をあて、先の論点を明確化することを試みた。報告時間30分。
20 体制移行期南アフリカにおける「和解と赦し」口頭発表 2008-05-00「心の危機の見極めと実践的ネットワークの創造」研究会(於・甲南大学人間科学研究所) 冷戦後に頻発する大規模紛争後の社会的特徴として、一般市民・非戦闘員の犠牲が膨大であることが挙げられる。政治的代表者間の合意や、形式的な過去処理によっては当時者の回復を図ることは難しいのではないか、としばしば指摘されるゆえんである。この共同研究では、集合レベルにおける「加害と被害」関係に関して、とりわけ「和解と赦し」という側面に焦点をあてている。報告においては、南アフリカの事例が、どのような形で「和解と赦し」に取り組むことになったのか、そこから引き出される同時代的な課題が何か、といった論点を取り上げた。報告時間25分。
21 Cambodian Returnees and Social Movements on Khmer Rouge Tribunal口頭発表 2008-08-00“‘Communities of Becoming’in Mainland South East Asia” Workshop Presentation, Faculty of Social Sciences, Chiang Mai University 「東南アジア大陸部における生成するコミュニティ」研究会での中間報告。30年前の政治暴力を裁くカンボジア・クメールルージュ特別法廷は、国内外の判事が協同して審理を行うユニークなメカニズムを有しているが、内部規則の調整が難航し、開廷遅延が続いている。他方で、被害者参加の道を探るふたつのNGOが、特別法廷の限界を補うかのような活動を展開し、注目を集めつつある。ポルポト政権時代にタイ側難民キャンプへ逃れ、その後アメリカで高等教育を受けたカンボジア人帰還者がリードする活動を追い、それらがどのような条件によって、独自の社会運動となりつつあるのか、という点について詳細な報告を行った。報告時間60分。
22 クメール・ルージュ特別法廷をめぐる正義と和解口頭発表 2008-10-00「心の危機の見極めと実践的ネットワークの創造」研究会(於・甲南大学人間科学研究所) 2006年に設置されたクメール・ルージュ特別法廷は「分かりやすい正義の遂行」を求める一般市民の声に反して、手続き的な、あるいは法論理上の細かい問題を解決できず、依然開廷が遅れている。その趨勢のなかで、「どのような制約・難題が、法廷に対する人々の反応に、どのような影響をおよぼすのか」という問いを検討した。具体的には、国外の支援を受けて活動を拡充しつつあるNGOに焦点をあて、それらの独自性および法廷裁判部との被害者支援に関する連携の意義について考察した。報告時間40分。
23 Reconciliation at the Social Level口頭発表 2009-01-00Symposium on "Violence, Terror, Dialogue and Reconciliation" (於・平和と和解の研究センター、一橋大学) 第2次大戦中にドイツが被害を与えた人々や地域に、若い世代のドイツ人を派遣し奉仕活動を行ってきたNGO、ASF(アクション・償いの証・平和奉仕)の活動に対し、アパルトヘイト後の南アフリカにおける事例を紹介し、比較することで論点を提供した。具体的には、和解概念における宗教的な含意や償いの証という考え方の背景を取り上げ、さらに、和解概念が社会レベルで用いられる際の難しさや特殊性についても焦点をあてた。報告時間25分。
24 クメール・ルージュ特別法廷と移行期の正義口頭発表 2009-10-00大谷学会(於・大谷大学) カンボジアにおけるクメール・ルージュ特別法廷の進行に関して、移行期の正義という観点から考察を行った。これまで、法廷設置の合意文書が署名されたのちにも、さまざざまな裁判規則をめぐる内部の意見の不一致、あるいは、法論理の外部に生じる審理延期の要因が観察されてきている。また、カンボジア社会における市民の反応は、賛成/反対の二分法では把握されない複雑さを呈している。移行期の社会で正義が追求されるとき、どのような現実が展開し、正義の概念をめぐってどのような現実が形作られていくのか。本報告では、法的な正義の可否に限定されない解釈を試みた。報告時間30分。
25 アパルトヘイト後南アフリカにおける「紛争と国家形成」口頭発表 2009-11-00アジア経済研究所「中東・アフリカにおける紛争と国家形成」研究会(於・上智大学) 武力紛争については、通常、否定的な位置づけがなされ、その早期除去、あるいは、発生防止をいかに考えるかが、前提的な論点とされる傾向にある。けれども、紛争を一つの社会現象と捉える場合、紛争の生起がもたらした社会の変化を考えることができる。本報告では、アパルトヘイト時代の南アフリカに生じた紛争が、その後の体制転換を経て、どのような影響を社会にもたらしたか、という問いを、とりわけ国家形成という概念を軸に考察した。報告者が焦点をあてたのが、新体制が制度化したコミュニティ・ポリシングの取り組みであり、その制度が、アパルトヘイト時代に法執行機関が武力紛争に深く関与していた事実と関係したものである点に着目した。報告時間60分。
26 カンボジア特別法廷と新たなコミュナリティ口頭発表 2010-01-00「東アジア・東南アジアにおけるコミュニティの政治人類学」研究会(於:国立民族学博物館) カンボジア特別法廷に関連する社会運動をとりあげ、その形態・特徴が、コミュニティ論の新たな展開と、どのような接点をもつものであるのか、報告した。事例として注目したのは、当該運動の主な担い手が幼少時をポルポト体制下で過ごしたカンボジア帰還民であるという点と、記憶の共有を公に図ろうとする動きの新規さである。また、コミュニティ論に関しては、とくにジグムント・バウマンの指摘のうち、「ある人々の集合が社会的に経験する排除ないし否定的な契機が、コミュニティの持続性を高める」という部分に着目し、特別法廷に関する社会運動が、関与する当事者の立場から見た場合に、独特のコミュナリティを持ちえているのではないか、と考察した。(報告時間30分)
27 Promoting Collective Engagement in the Khmer Rouge Tribunals under the Undesirable Conditions: New Social Movements and the 'Community of Becoming' in Cambodia口頭発表 2010-03-00“‘Communities of Becoming’in Mainland South East Asia” Seminar Presentation, Faculty of Social Sciences, Chiang Mai University この報告では、カンボジア特別法廷に関する否定的な要因に直面した市民社会組織が、どのような形で正義や人権といった価値観の追求を行うことになっているか、現在進行形の事例を挙げて考察することを目的とした。理論的には、「新たな社会運動」論や、ジグムント・バウマン、田辺繁治らのコミュニティ研究を参照するなかで、カンボジアに見られる現実の特殊性を把握することを試みた。報告時間30分。
28 真実と和解――過去と向き合う口頭発表 2010-06-00京都精華大学・アフリカ学講座(於:京都精華大学Shin-bi) サッカーW杯の開催国として注目を集める南アフリカの社会的背景を、とりわけ体制転換後の過去処理政策に焦点をあてて解説した。黒人対白人という単純な二項対立の図式に収まらない、法執行機関の問題やアフリカ人同士の抗争の背景など、具体的な論点を詳しく取り上げた。さらに、南アフリカの取り組み以降、移行期の正義という分野で一般化した和解の政治に関する理論研究の進展にもふれた。
報告時間90分。
29 Promoting Reconciliation Socially 解説・時事評論 2010-09-00Searching for the Truth, No. 129 (Documentation Center of Cambodia, Phnom Penh, Cambodia) カンボジアのクメール・ルージュ特別法廷は、法的正義の遂行を第一とするものだが、その特殊な背景から、和解の理念が同時に実現することが当初より求められていた。しかし、現実にはその理念をどのように応用するのか、異なる解釈をつき合わせ、あるいは新たな視点を検討しようとする取り組みは、当地においても今後の課題となっている。本論では、アパルトヘイト後の南アフリカでの取り組みを参照しながら、カンボジア社会における和解概念適用の可能性を議論した。(published in Khmer, translated by DC-Cam, 2p. (pp. 49-51))
30 「紛争後社会における和解」論の現在口頭発表 2010-11-00第83回日本社会学会大会(於・名古屋大学) 紛争後に公的な和解を掲げる取り組みは、いまでは移行期の社会における主要な選択肢のひとつとなった。その一方で、従来そうした取り組みを行ってきた国々は、和解概念を公的に規定せず、アカデミズムにおいても、概念理解に関する議論は依然として収束していない。この報告では、社会心理学・紛争解決論・平和構築論・政治学等を横断する先行研究を3つのアプローチから整理し、なかでも、deliberative democracyやagonismといった観点から和解の政治を評価する立場を発展させる視点を提示するよう試みた。報告時間15分。
31 南アフリカのコミュニティ・ポリシングとSSR――紛争後の治安回復へ向けた制度構築口頭発表 2010-11-00アジア経済研究所「中東・アフリカにおける紛争と国家形成」研究会(於・東京外国語大学) アパルトヘイト体制の終焉は、それまで不信の対象であった警察組織をどのように改革し、それと同時に、「犯罪の爆発」とも評される状況にどのように対応するのか、という問題を突きつけるものであった。本報告では、警察と地域住民の協力関係を構築し、相互不信を解消すべく取り組まれたコミュニティ・ポリシング政策の制度・実態について、まずセキュリティ・セクター・リフォーム(SSR)の文脈に位置づけた。また、その活動が、アパルトヘイト時代の紛争状況といかなる相関関係を持っているのか、分析を行った。
報告時間60分。
32 Contesting on Undefined Concept of Reconciliation口頭発表 2011-01-00Symposium on "Contextualizing Post-reconciliation Violence: Globalization, Politics and identities in Africa" (Embassy of Japan in Kenya, Nairobi) 紛争後のアフリカでは、近年、和解を掲げる政策が複数見受けられる。しかし、そうした政策遂行後に、あるいは政策自体に、新たな社会的問題が生じる否定性も確認されている。本報告は、マフムッド・マムダニが基調講演のなかで提起した国際司法の役割と正義の問題に関して、和解概念に関するトランジショナル・ジャスティス論における理論的展開を整理することから応答し、和解を掲げる政策の新たな評価基準を提案した。発表時間30分。
33 南アフリカにおけるコミュニティ・ポリシングの展開と課題口頭発表 2011-05-00日本アフリカ学会第48回学術大会(於・弘前大学) アパルトヘイト後の南アフリカ新政府が、それまで弾圧や紛争工作の主要なアクターであった警察の組織改革・正当性獲得のために実施したコミュニティ・ポリシングについて、現地調査による質的データにもとづき報告した。実施開始後15年の間に、政策的な力点がどのように変化してきたか、活動の概要、課題、住民側の主要な担い手、といった点を取り上げ、それらがアパルトヘイト時代の社会背景とどのような相関関係を有しているか、考察した。発表時間15分。
34 カンボジア特別法廷とローカル・オーナーシップ――NGOフォーラムを事例として口頭発表 2011-09-00第84回日本社会学会大会(於・関西大学) 先行するルワンダ、旧ユーゴスラビア、シエラレオネの国際法廷と比して、制度的なローカル・オーナーシップが最も確保されていると評されるカンボジアの特別法廷が、なぜ多くの市民の無関心や否定的反応にさらされているのか。この報告では、ローカルNGOによって国内各地で開催された公開フォーラムの記録を取り上げ、なかでも法廷関係者と各地の参加者のあいだにみられたやり取りを中心に分析した。そこでは、正義を追求する前提自体は共有されるものの、「どのように追求するか」という点に二者間のギャップが見出された。具体的には、より「体制指導者の政治的責任」に焦点をあてる前者と、「被害の歴史的理由」を期待する後者のギャップである。報告時間15分。
35 南アフリカ真実和解委員会の活動とその後口頭発表 2011-11-00「アフリカにおける紛争と共生」研究会(於・京都大学楽友会館) 南アフリカの真実和解委員会(TRC)の活動終了後、10年が経過しているが、近年、次の二つの文脈において、関連研究者による再検討が進められている。まずは、ポストTRC南アフリカの社会統合を分析する際に、TRCに代表される和解政策がどのような機能を果たしたのか、という問いがあり、次に、移行期正義分野におけるTRCの応用可能性を考える際に、南アフリカの経験が何を示唆するのか、という問いがある。この報告では、関連分野の研究の進展を幅広くフォローしつつ、この紛争解決手法が、アフリカ地域における紛争予防・紛争解決に今後どのようなヒントを与えるものであったのか、考察を加えた。報告時間80分。
36 南アフリカにおける和解政策後の社会統合――移民排斥問題とカラード・アイデンティティ・ポリティクスの台頭口頭発表 2011-12-00アジア経済研究所「紛争と和解――アフリカと中東の事例から」研究会(於・上智大学) 真実和解委員会に代表される南アフリカの和解政策実施後、10年が経過した。近年、同国におけるその後の社会統合を分析する際に、否定的な要素が指摘されるようになっている。ひとつは、2008年5月に全国で生じた外国人排斥事件であり、もうひとつは、カラードから発せられる現政府批判の言説である。これらについては、「国民統合をめざした和解政策の実施が、その反作用として排外主義的なナショナリズムにつながった」とする見解も出されているが、本報告ではその立場に反論し、むしろ、和解政策と並行して行われた社会資源再配分政策の運用過程に問題があったとする議論を展開した。報告時間60分。
37 南アフリカにおけるカラード・アイデンティティの台頭口頭発表 2012-05-00日本アフリカ学会第49回学術大会(於・国立民族学博物館) 南アフリカが黒人と白人という人種カテゴリーに分断されてきた社会である一方、近年では「アフリカ人とインド人」、「カラードとアフリカ人」同士の緊張関係が注目されている。とりわけ、ポスト・アパルトヘイトのアファーマティブ・アクション政策の実施に伴う問題が生じているのである。黒人の経済力を強化するという目的は、黒人概念にインド人とカラードを含む形で制度化された。しかし、社会各所におけるインフォーマルな制度運用、あるいはアフリカ人勢力が主導する政権政党の党内ポリティクス等を受けて、解放闘争に加わってきたカラードの元活動家たちからも非難の声が上がっている。この報告では、アパルトヘイト史の再解釈がアファーマティブ・アクションの基準をめぐる論争に影響を与えている点を指摘した。発表時間15分。
38 南アフリカの体制移行とポスト・マンデラの国民統合口頭発表 2012-06-00シンポジウム「アフリカ諸国における独立後50年の回顧と展望――独裁制と独裁者の再検討」(於・信州大学) 独立後アフリカ諸国の統治者については、連続在任期間が10年を超える長期政権の数が多いことと、クーデタや内戦の結果として統治者の交代が行われる例が多いことが指摘されているが、南アフリカの場合、そうした傾向とは対極にある。この報告では、ヨーロッパ人支配からの独立という意味での体制転換が、どのような要因により、南アフリカ独特の状況を生んだか、整理した。また、黒人政権誕生後18年が経過した現在、マンデラの「虹の国」の理念がどのような課題に直面しているか、国民統合という観点から考察した。報告時間30分。
39 Perceptions of the Khmer Rouge Tribunal among Cambodians: Implications from the Proceedings of Public Forums Held by a Local NGO口頭発表 2012-09-00Workshop on ‘Justice in What Ground?: Cambodian People’s Perception of the ECCC’(Phnom Penh) 移行期の正義プロジェクト、あるいは国際司法の実践においては、現地の社会構成員がどのように受け止めるかという点が、プロジェクトの成否を左右する重要なファクターであると認識されてきている。というのも、紛争後の社会は、司法的なキャパシティや政府予算等の問題もあり、正義の名を掲げても十分な活動が保証されないからである。この報告では、特別法廷が活動を開始した初期段階におけるNGOフォーラムの議事録をもとに、ローカル参加者と特別法廷司法官らがどのような相互作用を行ったか、その過程から、カンボジア特別法廷の運営とローカル・オーナーシップの理念がどのような関係にあるか、分析を行った。報告20分。
40 移行期正義と社会学口頭発表 2012-11-00日本社会学会第85回大会(於・札幌学院大学) 冷戦終了後の世界で頻発する内戦あるいは体制転換後の紛争処理に関して移行期正義という分野が形成されつつある。国際法廷や真実委員会等の政策を包含する同分野に対する成果評価としては、紛争後もなお残存する種々の問題により、選択された政策への社会構成員の動員の可否が注目されている。同分野を主導する研究者が法学ないし政治学であるため、従来は動員過程や動員の結果に対する考察は十分に行われてきていない。この報告では、社会運動論の知見を参照しつつ、どのような参照点が移行期正義の成果評価にとって重要であるのか、検討した。報告時間15分。
41 警察改革とコミュニティ・ポリシング評論・時事解説 2012-11-00アジ研ワールド・トレンド(2012年11月号) 民主化後の南アフリカは、公務員ポストに対するアファーマティブ・アクションや移民増、新たな経済格差の拡大といった諸要因が相乗する形で、とくに都市部における治安の悪化が問題視されてきた。また、アパルトヘイト時の警察機構をどのように変革することができるのか、という問いも喫緊の課題となっていた。この問題に対して新生南アが採用した制度のひとつが、地域住民との連携を強化するコミュニティ・ポリシングである。本論では、この取り組みが比較的順調に展開している地域を、ジョハネスバーグ・ダウンタウンおよびケープフラットから二つ取り上げて比較した。そこでは、かつて解放運動に関与してきた活動家の存在が南アに独自の、かつ重要なステークホルダーとして認められることを指摘した。4頁(34-37頁)。
42 南アフリカにおける和解政策後の社会統合とカラード・アイデンティティの台頭口頭発表 2012-12-00アジア経済研究所「紛争と和解――アフリカ・中東の事例から」研究会(於・上智大学) 和解政策の影響が当該社会に及ぼす影響をどのように把握できるか。この報告では、政治的な勝者であったアフリカ黒人と、前体制の支持民族であったアフリカーナーの双方に接点をもつカラードが、新体制において経済的格差是正策の受益者となることが法律上は定められたにもかかわらず、制度運用の現場において種々の不利益を被っていると異議申し立てを行ってきた状況に着目した。とりわけ、アファーマティブ・アクション訴訟と称される一連の裁判の争点を踏まえ、現在の南アフリカ社会は、なぜ、どのような経緯で、「虹の国」というスローガンを掲げ、多民族協調の社会を目指した南アがアイデンティティ・ポリティクスを先鋭化させているのか、考察した。報告時間45分。
43 Lawyer Mandela's Court Tactics and the Potential Function of South African TRC口頭発表 2012-12-00International Forum on Conflict Resolution through Reassessment and Utilization of African Potentials (The Garden Hotel, Harare, Zimbabwe) 南アフリカの体制移行において和解政策の果たした役割は大きかったが、他方、その実施に対する様々な批判も提起されてきた。その批判の多くは、法的に定義されなかった和解概念の「期待される結果」を前提としたものであった。しかし、予算・人員・期間・政治的安定等、和解政策の帰結を左右するあらゆる条件が不十分であるなかで、その効果を理解するには、因果論的な視点だけでは足りない。この報告では、フォーマルな制度のインフォーマルな活用に着目し、体制移行後の和解政策には「ネーション・ビルディングへ向けた装いの下で、反論という形式を通して多様な政治的主張を並列させる」機能を考察し、それが、アパルトヘイト期の政治運動のなかにも見出される性質であることを論じた。報告時間25分。
44 The ebb and flow of assemblage in Cambodian non-governmental organisation (NGO) movements: The case of human rights initiatives led by diaspora-returnees on the Khmer Rouge Tribunals口頭発表 2013-03-00Workshop on "Community Movements in Mainland South East Asia" (Faculty of Social Sciences, Chiang Mai University) 同時代的な国際司法プロジェクトのなかでカンボジア特別法廷が注目される理由のひとつに、被害者参加制度が初めて実現したということがある。その制度が社会的に機能する際に役割を果たしたのが、ローカルNGOであった。報告では、クメール・ルージュ体制下で難民としてアメリカへ亡命、その後帰還したカンボジア人が代表を務めるNGOを二つ取り上げた。帰還民という立場をいかし、それまでにカンボジア社会では見られなかった活動を行い、多様な社会的存在を運動に取り込む一方で、どのような特有の問題に直面し、10年弱の活動期間のなかでどのような変容を見るに至ったのか、その変遷を具体的に跡づけた。報告時間30分。
45 移民集住地区においてコミュニティを創造する――ヨービュー・ニュースの試み口頭発表 2013-05-25日本アフリカ学会第50回学術大会(於・東京大学) ポスト・アパルトヘイト、ポスト和解政策後の南アフリカにおける社会統合を検討する際に、移民へのまなざしを欠かすことはできない。とりわけ2008年5月のゼノフォビア襲撃事件以降、南アフリカはアフリカ諸国出身の移民に対して、制度的・日常的にどのような対応をすべきか、工夫をせまられている。この報告では、ジョハネスバーグのなかでも、住民構成において移民の比率が非常に高いヨービル地区を取り上げ、そのコミュニティ新聞が、どのような形で移民を意味づけ、移民が過半数を占めるといわれる地域アイデンティティをどのように構築しようとしているのか、分析した。報告時間15分。
46 Is Transitional Justice as a Potential Failure? Understanding Transitional Justice based on its Uniqueness口頭発表 2013-10-05 International Symposium on Conflict Resolution and Coexistence (Center for African Area Studies, Kyoto University) 冷戦以後、アフリカ各地における内戦は、それに続く移行期正義プロジェクトの実施とともに注目を集めてきた。本報告では、特に南アフリカ・シエラレオネ・ルワンダで行われた事例に対する当事者および研究者の間で蓄積されてきた批判的言説を整理することから、タイプの異なる移行期正義プロジェクトに共通する問題点を探ろうとした。主要な議論のひとつは、紛争後社会では法規範と社会秩序が不安定であり、移行期正義の理念や目的、権威も国民には共有されておらず、結果として、活動を通じて正当性が拡大することを期待する社会運動的な性質を帯びる、というものである。報告時間25分
47 移行期正義プロジェクトを報道する難しさ――カンボジア特別法廷に関するローカル・メディアの事例分析口頭発表 2013-10-12日本社会学会第86回大会(於・慶應義塾大学) 国内の法規範・社会秩序が不安定な紛争後社会では、移行期正義プロジェクトの帰趨に、ローカル・メディアによる情報共有およびアジェンダ・セッティングが影響を与えることは、従来の移行期正義研究でたびたび指摘されてきた。この報告では、カンボジア特別法廷に関するローカル報道を取り上げ、そこではどのような傾向・特徴が見出せるのか、それが、特別法廷に関するどのような理解を読者に与えうるのか、考察した。主要な議論のひとつとしては、移行期正義が実施される当該社会の国内政治状況によって、アジェンダ・セッティングの幅が制約される点である。報告時間15分
48 弁護士マンデラのプラグマティズムと真実和解委員会評論・時事解説 2014-01-00アフリカレポート52号(アジア経済研究所) 南アフリカの元大統領ネルソン・マンデラの逝去に際して、その政治的行政を再評価する機運が高まっているが、そこで不可欠であるのが人種和解を掲げた取り組みの位置づけである。本論では、反アパルトヘイト解放運動に関与し始めた時期の弁護士としてのマンデラの戦術、また服役中の彼の言動を振り返り、体制転換後の和解政策につながる特有のプラグマティズムの表れを指摘した。5ページ(5-9ページ)。
49 新しい社会運動事典項目執筆 2014-07-00国立民族学博物館編、『世界民族百科事典』(丸善出版) 新しい社会運動とは元々、1970年代以降に欧米で盛んになったエコロジーや平和運動、女性運動などを、それまでの「誰か(権力者)に対する抗議を通して、社会的資源(権利や資本)の獲得をめざす」(旧い)社会運動と対比させる概念であった。しかし今日、さまざまな紛争後・民主化後の社会における人々の紐帯や価値のあり様を理解する際に、この概念は有効である。ここではカンボジアにおける同時代的な事例を取り上げ、解説した。562-563ページ。
50 紛争後社会の和解政策を再考する:南アフリカの事例を中心に講演 2014-07-00立命館大学生存学研究センター・アフリカセミナー(於・立命館大学) アパルトヘイト後の南アフリカで行われた和解政策は、同国の政治的移行にとって重要であっただけでなく、その後の他国における政治的移行のモデルともなった。和解という理念がどのような具体的な活動を伴って現れたのか、その理念は従来のスタンダードであった正義とはどう異なるのか、現在の和解論における理論的到達点はどのようなものなのか、といった諸点を整理し、紹介した。60分。
51 Standing by/ for their own feet: African soccer players in Cambodia口頭発表 2014-07-27Doshisha GRM International Conference: Africa and Asia Entanglements in Past and Present (Doshisha University) 国際大会におけるアフリカ人サッカー選手の影響力の急速な拡大によって、ヨーロッパにおけるサッカー移民に関する研究も急速に進展している。その一方で、アジア地域におけるアフリカ人選手に着目するものは萌芽的であり、ほとんどない。この報告ではカンボジアにおけるアフリカ人選手の動向を報告し、彼らの動機、ホスト社会への適応、また東南アジアにおけるサッカー市場に対する影響力に関して考察を行った。報告時間20分。
52 多元的あるいは緊張をはらんだ社会状況で相互作用を促進する口頭発表 2015-03-21シンポジウム「文化から日常へ――創造的接合知生成のための日常人類学的研究」(於・京都大学文学部) 社会人類学における日常的実践概念は、従来、否定的状況における行為当事者の創造性に着目する議論として評価されてきた。その一方で、その概念を通じた集合的効果に関する考察は十分に発展させられていないものと思われる。この報告では、さまざまなレベルにおける紛争状態(武力紛争に限らない)を転換するための集合的なメカニズムとして、具体的には松田素二によるナイロビの民族誌を取り上げ、異民族間のステレオタイプや創出される都市儀礼の集合的効果を検討した。報告時間20分。
53 書評:高城玲著『秩序のミクロロジー――タイ農村における相互行為の民族誌』書評 2015-06-00文化人類学第80巻1号 書評の対象は、タイ中部に位置するナコンサワン県の農村社会に生起するさまざまな相互行為の実態を実証的な調査研究に基づいて記述する民族誌である。ブルデューとゴフマンの理論的フレームワークを参照し、またその認識の超克をはかる本書に対して、この書評では、構造的制約の外部をめざす行為者の「微細な修正や変形、ずらし」を追跡する可能性を指摘した。pp.88-90.
54 Unintended pan-African strategy through individual performances: African soccer players in Cambodia口頭発表 2016-05-00Symbosium on migrantion and agency in a globalising world: Afro-Asian encounters (Stellenbosch University) 東南アジアのサッカーシーンは、日本企業によるスポンサー参入とアフリカ人選手を筆頭に急増する外国人プレイヤーの競争を軸に急激な変化を遂げている。そこでは、ヨーロッパ・リーグへの移籍を目指して集まる選手間の個々のキャリア追求のみならず、出身地域・出身国のプレイスタイルをめぐるヘゲモニー争いも盛んになっている。この報告では、とりわけアフリカ人選手たちのインフォーマルなパン・アフリカン・ネットワークに着目し、それが生活面での社会適応のみならずプレイの戦術面でも機能している点を指摘した。報告時間40分。
55 過去に触れつつ遠ざける--移行期正義における記憶表象講演 2016-06-11日本時間学会学術大会シンポジウム(於・京都工芸繊維大学) 紛争あるいは独裁状況からの体制移行期に選択される移行期正義政策は、時間という観点から考えれば「紛争状態における時間の流れ(の欠如)」から「安定社会における時間感覚」への変化を社会構成員に告げる機会である。国際法廷、真実委員会、追悼記念館や戦争博物館などのメモリアル施設は、それぞれが過去の多様な記憶を特定の角度から取り上げ、社会的に公式の意味づけを行うと同時に日常生活から隔離していく過程でもある。この報告では、各紛争後・移行期社会の「時間」に対する公式の働きかけが具体的に表れる諸相として、移行期正義政策のバリエーションを位置づけた。60分。
56 アパルトヘイト終焉後の和解の取り組み:真実和解委員会講演 2016-07-04国際協力連続セミナー(於・JICA関西) 紛争の多発する現代において、紛争後の社会再建をどのように進める可能性があるか。民主化後の南アフリカの事例を取り上げつつ、その独自性、応用される余地、残された課題等について説明した。60分
57 和解論事典項目執筆 2017-07-00日本社会学会理論応用事典刊行委員会編(丸善出版) 現代社会の問題、とりわけ対立とコンフリクトという文脈において和解という概念がどのように具体化しているか、簡潔に紹介した。言及したトピックは、「和解概念が広まってきた背景」、「和解論の現在」、「和解政策の実例とその課題」である。本人担当688-689頁。
58 触発的な制度設計――南アフリカの移行期正義における十分すぎるコントロールと不作為の中間領域口頭発表 2017-10-14科研S「アフリカ潜在力」と現代世界の困難の克服:人類の未来を展望する総合的地域研究・研究会(於・京都大学稲盛記念会館) 移行期正義のグローバルな広がりとともに、その公式目標に照らし合わせての批判も蓄積されてきた。しかし移行期社会の条件を考えれば、十分なコントロールによる当該社会の変化を望むのは現実的とはいえない。他方、フェイクTJ(名目だけの、あるいは別の政治的目的のための隠れ蓑としての移行期正義)が問題視される昨今、ローカルオーナーシップをそのまま称揚することもできない。この報告では、公式目標の失敗にもかかわらず、現地社会における派生的な影響をもたらす活動に焦点をあてる必要を指摘した。報告時間20分。
59 生体認証の統治・市場・ニーズ口頭発表 2017-10-20アフリカ研究セミナー(於・関西大学経商研究棟) 『生体認証国家』(キース・ブレッケンリッジ著、堀内隆行訳、2017年)は、指紋登録・認証を通じた統治の試行錯誤のプロセスとして、南アフリカの近現代史を描いている。文書行政と対比される生体認証管理は、南アフリカという特殊な一国内植民地状況において発展したが、20世紀末以降、IT化と経済効率化の流れの中で、短期間にグローバル化した。この報告では、南アフリカ近現代史における生体認証の位置づけの変化や、現在のグローバルな潮流との比較を取り上げた。報告時間30分。
60 A catalytic policy elicits positive deviants口頭発表 2017-11-24Forum on: African Potentials to Develop Alternative Methods of Addressing Global Issues (Rhodes University, South Africa) 「アフリカの地域・歴史に見出される潜在力を探る」というテーマのもと、とりわけ南アフリカの体制移行が、その後、移行期正義のグローバルな展開の中でどのような役割を果たし、またどのような展望を提供しているか、検討した。報告時間20分。
61 南アフリカの和解政策をどのように評価するか口頭発表 2018-03-23日本オセアニア学会第35回研究大会、アフリカ学会・オセアニア学会合同シンポジウム「紛争と共存をめぐるローカルな対処—―オセアニアとアフリカの事例から」(於:沖縄美ら海水族館イベントホール) 民主化移行期の南アフリカで実施された和解政策(TRC)に関して、ポストTRC期の研究蓄積を踏まえつつ紹介し、オセアニア各地における紛争解決の事例に見られる「近代司法の前提・目的とは異なる対処法」との相違点を論じた。報告時間15分。
62 南アフリカの移行期正義における意図せざる結果口頭発表 2018-05-27東南アジア学会第99回研究大会(於・北九州市立大学) パネルセッション「東南アジアとアフリカの移行期正義とその後――和解と社会統合をめぐる比較検討」において報告した。南アフリカの移行期正義政策については、活動終了後20年近く経過していることもあり、その後の社会的影響に論点をしぼって考察した。パネルでは、東ティモールやカンボジア等、東南アジアで実施されてきた移行期正義の取り組みと比較するなかでどのような共有点が見出されるか、検討を加えた。報告時間25分。
63 ルイボス利用の権利は誰に帰属するか口頭発表 2018-06-16「「アフリカ潜在力」と現代世界の困難の克服」研究会(於・稲盛財団記念館) ルイボスティーはワインとともに、南アフリカの代表的な農産物である。限定された栽培環境とグローバルな需要の急速な拡大によって、また、名古屋議定書で先住民の権益保護が明文化されたことで、生産側ステークホルダーの利益配分が大きな課題となってきた。この報告では、現在南アフリカで検討されている法案(Indigenous Knowledge Systems Bill)をめぐる議論を紹介し、ルイボスがどのような社会的な位置づけを与えられつつあるのか、またそれが今後の人種・民族関係にどのような影響を及ぼす可能性を持ちうるのか、考察を加えた。報告時間80分。
64 Street Art and Urban Development口頭発表 2018-08-24Rethinking "Community": From Case Studies in Mainland South East Asia (Yangon University) プノンペンに見られるストリートアートの事例に注目した。再開発地区周辺に見られる作品や消去の対象となった作品などを通して、ストリートアートが都市開発の文脈の中で、どのような役割を主張し、またその位置づけをめぐって、どのようなステークホルダーがどのような交渉関係を取り結ぶことになるのか、考察した。報告時間20分。
65 サッカーを取り巻くメタゲーム――ポストモダン・サッカー市場におけるアジア戦略単著 2019-06-00ソシオロジ第64巻1号(195号) サッカーの競技レベル・市場規模の両面において、アジア地域は欧州に及ばないものの、近年、変化・発展の度合いは著しい。Jリーグは「アジアと共に成長する」アジア戦略を掲げているが、それは、W杯地区予選の国別の割り振りや欧州・中南米地域の相対的な優位性を考えれば、アジアの他国にとっても当を得た目標となっている。本論では、Jリーグのアジア戦略が、とりわけASEAN側のどのような反応を喚起しており――彼らもまた独自の「アジア戦略」を展開している――、そのことは経済的に格差のある複数社会を比較検討するスポーツ社会学における従来の分析枠組みや視点に対してどのような示唆をもたらしているか、考察を加えた。pp.117-127
66 東南アジア・サッカーリーグにおけるアフリカ出身選手の適応戦略口頭発表 2019-10-06第92回日本社会学会大会(於・東京女子大学) 東南アジア、なかでもメコン地域のプロサッカーリーグに所属するアフリカ出身の移民選手について、適応戦略やネットワーク形成の観点から事例を報告し、それが従来の、ヨーロッパを舞台としたサッカー移民研究における一般的認識とどのような相違点を持っているか、考察した。報告時間15分
67 'Repertoire of collective action for land recovery: Cambodian exemplars' 口頭発表 2020-09-10Online (Zoom) シンポジウムNew Aspects of Communities Movements in Southeast Asia (Chiang Mai International Symposium) での口頭発表(25分)。2000年初頭以降、カンボジア政府と国際機関、外国企業が共同推進する形で、カンボジアの土地(農地)改革が進行してきた。しかし、各地では土地移譲に伴うコンプライアンスが十分に実施されておらず、現地政治エリートとつながる外国企業による収奪の問題も多数生じている。この報告では、各地住民による土地権利回復運動の動向を取り上げ、とりわけその運動レパートリーにグローバルな要素がどのように反映されているか、という点について具体的に紹介した。
68 坂口真康著『「共生社会」と教育-―南アフリカ共和国の学校における取り組みが示す可能性』書評書評 2021-12-00社会学評論72巻3号 アパルトヘイト後の南アフリカ共和国で導入されてきたきたLife Orientationという必修科目に関する制度・運用上の実態を取り上げ、共生社会論・共生教育論を展開する同書の書評。
69 小倉充夫著『自由のための暴力』書評 書評 2022-03-00社会学評論72巻4号 世界各地における政治革命・植民地解放闘争の事例比較を通じて、政治運動の暴力/非暴力的選択がその後に及ぼす影響や、運動のなかに混在する暴力と非暴力の相互関係に着目する本書に対して、社会学的な認識枠組みを反映する解釈を提示した。72-73頁
70 石田慎一郎著『人を知る法、待つことを知る正義――東アフリカ農村からの法人類学』書評書評 2022-05-00アフリカ研究101号 本書は、「複数の正しさが競合する状態を停止する独特の回路・方策を導入する」オルタナティブ・ジャスティスと「異なる社会的背景を持つ法システムの併存状況を示す」リーガル・プルーラリズムに対して、東アフリカの文化的・社会的実践の創造性と有効性を論じている。評者として、とりわけ「複数の正しさが折り合わない状況における法の可能性」に注目した。82-83頁
71 山本めゆ著『「名誉白人」の百年――南アフリカのアジア系住民をめぐるエスノ―人種ポリティクス』書評書評 2023-06-00ソシオロジ第68巻1号 アパルトヘイト期の南アフリカにおける日本人の制度的位置づけを歴史社会学および移民研究の文脈から分析する同書の書評。アパルトヘイト期後半(1970年代以降)の中華系住民の位置づけの変容との比較や、今後のグローバルな人口動態を鑑みたうえで各国におけるアジア系移民のアイデンティティと権利を検討する可能性等について注目した。73-77頁。
72 松田素二・フランシス・B・ニャムンジョ・太田至編『アフリカ潜在力が世界を変える―オルタナティブな地球社会のために』 書評書評 2023-09-00『アジア・アフリカ地域研究』第23-1号、126-129頁 5年2期にわたる大型科研プロジェクトの最後に出版された成果論集の書評。本書のテーマである「アフリカ潜在力」概念には、①「アフリカを含む現代世界が有効活用できる知識・情報は何かという問いに対するアフリカ発の答えを提示する」志向とともに、②「異質な存在が対話をとおして何かを創造する機会を触発する」ねらいも込められている点を指摘しつつ、各章の議論を紹介した。
以上72点

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